エッセイに支払った対価が今ある場所

カリスマ主婦のデタラメ生活…人気エッセイストを逮捕(サンスポ)
「山崎容疑者の経歴は「大学卒業後、公務員となり福祉関係の仕事に従事。ドイツを度々訪れた…」などとあるが、同署の調べでは「公務員になった事実もドイツを訪れた事実もない」。また「結婚直前に夫(外崎容疑者)が交通事故に遭い、障害者となった。私に婚約指輪を贈る予定だったが購入できなくなった」とある。が「2人が出会ったのは外崎容疑者の交通事故後で、入院先の病院で偶然隣の部屋になったこと」というから、これも真っ赤なウソ。さらに最大のウリの「35年ローンを7年で完済」も、「外崎容疑者は交通事故で障害者認定を受け、多額の補償金が入っている。静岡市の自宅は彼の所有で借金せず購入したようだ」。」

刑法の157条1項をご覧下さい。

第157条(公正証書原本不実記載等) 

「公務員に対し虚偽の申立てをして、登記簿、戸籍簿その他の権利若しくは義務に関する公正証書の原本に不実の記載をさせ、又は権利若しくは義務に関する公正証書の原本として用いられる電磁的記録に不実の記録をさせた者は、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。(以下略)」 

刑法の157条1項は、嘘の内容の公文書を公務員に作らせた人を処罰します。

公文書はそれを頼りにたくさんの人達が権利関係を動かすので、デタラメがあっては社会がガタガタになるからです。

これを法律的には「文書偽造の罪の保護法益は文書に対する公共の信用である」と表現します。

公文書の内容は、個人が調査するまでもなく真実性が担保されていなければ公文書の仕事をなし得ません。

もし山崎えり子さんが新しい戸籍を違法に入手し、今後その戸籍のもとどんどんと新しい文書が作成されていけば精密には責任の所在が不明な文書が量産されていくことになります。

そこで刑法は文書偽造においては、もともとの責任を元に戻ってたどれなくする作成名義の偽造をとくに警戒しています。

文書の仕事である「内容の公共への証明」は、その責任の所在を誤魔化すことでもっとも害されるからです

山崎えり子さんは今回戸籍を偽造しようとして逮捕されましたが、それ以前に著作の経歴や、美談、それよりなにより20冊あるという著作の内容そのものが事実に基づかないものだったのだそうです。

人は自分の生き方を少しでもよい方向に修正しようと、いろいろな本を購入して、本を書く人の知恵を得ようとし、本を購入する前にはカバーの裏をめくり、著者の人となりを確かめます。

なぜなら不確かな人からでたらめな知恵を得たのでは、私やあなたの生活は艶を得るどころか混乱に陥るからです。

民法に”報償責任”という概念があるように、出版社には事業者として著者の経歴の基礎的な部分を出版前に調査しておくようななんらかの枠組みが必要だと感じます。

それがないために、「出版物」という形態を信じて生活を少しだけ楽にしようと主婦が払った書籍代は、20冊分の巨額な売り上げとなり、経歴や書籍の内容そのものを詐称した著者とそれをチェック無く出版した出版社に今もまだ不当に移転しているままなのです。



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