責任を前にしたとき彼が商人かどうかがよくわかる

木村建設が1回目不渡り 耐震偽造問題で経営悪化(goo)
耐震強度偽造問題で、マンションやホテルを設計、施工した熊本県八代市木村建設は22日、木村盛好社長名で「21日に手形が不渡りとなった」と同市の本社玄関前に張り紙を出した。関係者によると、民事再生法の適用申請を検討するなど、今後の対応を弁護士らと協議中という。不渡りは1回目。張り紙の説明によると、問題が連日報道されるようになり、取引銀行の熊本ファミリー銀行が「債権保全のため」として、木村建設の当座預金と同銀行への債務を相殺したことが不渡りの直接原因としている。熊本ファミリー銀行は「相殺の事実はない」(経営管理部)としている。」

東京手形交換所規則施行の65条第1項をご覧下さい。

第65 条(取引停止報告)

「1. 不渡報告に掲載された者について、その不渡届にかかる手形の交換日から起算して6か月以内の日を交換日とする手形にかかる2回目の不渡届が提出されたときは、つぎの各号にかかげる場合を除き、取引停止処分に付するものとし、交換日から起算して営業日4日目にこれを取引停止報告に掲載して参加銀行へ通知する。(以下略)」

不渡りとは、手形という商業上の仮のお金が、現金との交換を拒絶されたことをいいます。

通常、手形交換所規則では、半年以内に2回の不渡りを出すと、その支払義務者、つまり手形を振り出した法人は銀行取引停止処分を受け、その交換所に加盟しているすべての銀行と当座勘定取引および貸出取引をすることが2年間できなくなります。

つまり二回ヘマをやらかした法人は、ペナルティとして事実上、商いの世界から長期間抹殺されるわけです。

このような不渡処分の厳しい制裁は、手形金支払の確実性を強化するもので、手形の流通性の促進に大きな役割を果たしています。

しかし逆に商人は一度目の不渡りを出したとしても、信用を維持するため、商いの世界で生きていくためになんとか二度目の不渡りは回避しようと必死になりますし、交換所規則が制裁に一度猶予を与えているのもそれを期待しているからに他なりません(私見)。

マンションなどの耐震強度偽装問題で、構造計算書を偽造した姉歯建築設計事務所から「『鉄筋量を減らせ』などと指示された」と名指しされている三社のうちの一角がただの一度の不渡りを理由に破産申請をなす方向なのだそうです。

不渡りの理由として取引銀行への当座預金が銀行への債務と相殺されたことを挙げていますが、銀行側はこれを否定しています。

それはそうでしょう、この時期責任主体となると目されている法人を破産に追い込んでしまうような処理を銀行がしようものならば社会的批判を避けられません。

事の真偽を置いておいても、民事再生法が適用されれば法人、すなわち法的な仮想人格を縛る責任が幻のように薄くなり、取引業者のもつ債権と、コンニャクのようにやわらかいマンションにとり残された住人達への金銭的補償から緩慢な時間的距離をとることが許されることになります。

こうなると、破産が戦略的に用いられたのではないことをただ信じるしかありません。

なぜならばもしそのような経営方針の法人の存在を許す業界があるとすれば、その業界の生存理論そのものが、不良マンションを生涯のローンで背負わされる人達の出現をあらかじめ予約していたことになるからです。
 


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