じさつをよこくしたきみへてがみをかこう

自殺予告手紙:「生きていくのがつらい」……手紙全文(毎日新聞)

教育委員会

なぜ僕が自殺をしたのかわかりますか。ぜったいわからないとウソをつくでしょう。まず最初に言いたいことがありま。今回の自殺は、「いじめが原因で自殺した。自殺といじめは因果関係があり教育委員は、いじめをしっていながらなにもしなかった。」とはっきりテレビのニュースで本当のことをいってください。親が教育委員会に学校がなにもしないとなんどもなんどもいったのになぜなにもしないのですか。教育委員会のしごとはなんですかおしえてくださいいじめをさせるのが教育委員会のしごとですか教育委員会は全国にあっていじめをさせているのですか。テレビでは、ウソつきをしています。またこんかいもしょうこいんめつをするのですかこんかいはぜったいさせません。なので文部科学大臣に遺書を書きました。僕は、なにもしなかった教育委員会をゆるせません。なので11月8日水曜日までにいじめがかいけつできなかったら11月11日土曜日に自殺をします。ほんきです。なにもしない教育委員会はいらないすぐに解散してください。僕は、死んだらうらみます。教育委員会は、どこもニュースでやっているとおり同じです。ウソをついて自分のためだけにやっています。きゅうりょうどろぼうで自己中心でゆるせません。なので僕は自殺をします。」

憲法の98条をご覧下さい。

第98条〔憲法の最高法規性〕

「この憲法は,国の最高法規であって,その条規に反する法律,命令,詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は,その効力を有しない。」(以下略) 

 

君が生まれるずっと前、この国には御前会議(ごぜんかいぎ)や枢密院(すうみついん)という組織(そしき)があったんだ。

御前会議っていうのは、法律(ほうりつ)の根拠(こんきょ)がぜんぜんない組織だったんだ。

だけど国の一番大切な決めごとはたいていこの人たちに決められていたんだよ。

たとえば戦争を始めることなんかはこの人たちが決めて、普通の人たちは文句をいえない時代だったんだ。

それと枢密院っていうグループもまた、憲法(けんぽう)より偉いところにあった。

枢密院はあんまりにも偉くて、総理大臣(そうりだいじん)たちの行動さえコントロールしてしまっていたんだ。

御前会議も枢密院も、憲法が縛(しば)れない場所にあった。

だから日本が戦争に負けた時、占領軍(せんりょうぐん)っていう外人さんたちがやってきて、そういう法律の外にある集団のことを詳(くわ)しく分析(ぶんせき)した。

そして普通の人が自分の一生を自分で決められる国にするためには、新しい憲法に「ぜったいに憲法より偉い存在(そんざい)をつくってはいけない」っていう文章を入れようときめたんだ。

それが今の憲法の98条に書いてある「憲法の最高法規性(けんぽうのさいこうほうきせい)」という文章(ぶんしょう)の意味(いみ)なんだ。

それ以降(いこう)、法律全体(ほうりつぜんたい)の意味(いみ)づけがおおきくかわった。

昔はよかったっていうおじいさんがいたらそれは嘘(うそ)だ。

君が自分で調べれば、世の中はいつだって少しずつ昔よりマシになりつづけていることがわかる。

君にとっては毎日が地獄だろう。

でも君の手紙を文科省(もんかしょう)が約束通り公開したのも、今までで一番マシになった世界が、君の暮らす世界だからなんだ。

それでもクラスにいる君のように、社会にもふみにじられている弱い人たちはたくさんいる。

君の言うように、今の大人はそれについて全然役立っていないかもしれない。

でも大人(おとな)たちは、意外(いがい)に必死(ひっし)でそれを考えている。

それでもうまくいかなかったとき、正(ただ)しい態度(たいど)を示(しめ)していくのがほかでもない、大人になった君だ。

それはそういう経験(けいけん)と感受性(かんじゅせい)をもった、将来(しょうらい)の君にまかされた責任(せきにん)なんだ。

君がその責任をひきうけないうちは、解決(かいけつ)はいつも他人次第(たにんしだい)だから、どこにでも苦しみをみつけてしまうだろう。

実は大人たちもそういう責任をとれないために、自分の苦しみを始終(しじゅう)他人のせいに感じている。

僕自身も不愉快(ふゆかい)なことをすぐに他人やどこか偉い人のせいにしたくなるんだ。

そして被害者(ひがいしゃ)でいつづける気持ちはとてもつらい。

だから大人のくせにいろんな本を読んで、もっとたくさんのものの見方を勉強してる。

大人達は失敗(しっぱい)したり、威張(いば)ったり、知らん顔をしたりしながら、なんとか前よりマシな世界をつくっていこうとしているんだ。

それはあらゆる生き物の本能(ほんのう)なんだ。

残念ながら君が本当に死んでも、僕はすぐに忘れてしまうだろう。

だったら行きたくない学校(がっこう)なんていかないほうがいい。

それに寝る前に悪いニュースばかりみていたら、すぐに誰かのせいにする言葉遣いしかできなくなるからやめよう。

それよりも君にとっては、自分の好きになった言葉や映画(えいが)や音楽(おんがく)を集めて、自分の中に自分の気持ちのいい世界をちょっとずつ作っていくことのほうが大切なんだ。

そうやって皆(みな)、他人に振り回されない自分をちょっとづつ作(つく)っていくものなんだ。

期待(きたい)しちゃだめだ。

これからも君の前には、ドラマのような先生はあらわれない。

でも君は憲法98条が一番高いところにある、いままでで一番マシな世界に住んでいる。

そして君の世の中の見え方をこれから何度も変える言葉が、まだまだたくさん君を待っているんだ。

 

 

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