南部の流儀とリンカーンの射殺

デル、違法採用の疑い 自社で面接し派遣社員に(朝日新聞)

「男性は、川崎市のデル本社での面接で「採用です」と言われたうえ、社名入りの名刺を持たされたため、「デル社員として採用された」と思っていた。しかし、04年2月ごろ、社会保険などについてデルに問い合わせた際に、派遣社員だと知らされたという。」

アメリカ合衆国憲法修正13条第1節をご覧下さい。

U.S. Constitution: Thirteenth Amendment:Section 1.

「Neither slavery nor involuntary servitude, except as a punishment for crime whereof the party shall have been duly convicted, shall exist within the United States, or any place subject to their jurisdiction.」

(私訳)

「罪に対する罰として以外、隷属も不本意な労働もアメリカの内には存在を許さない。」

人間を物として売り買いする奴隷制度が世の中の常識だったころのアメリカで、北部では商工業の発達により、奴隷を大量に使って農業を営んでいた南部に対して奴隷解放の主張が激しくなされるようになりました。

互いの主張が激しくなるなか南部はついに独立政権を宣言、とうとうアメリカは北と南に分かれて戦争をはじめることになりました。

戦時中、北軍の代表、リンカーンは奴隷解放宣言をし、ゲティスバーグの丘で有名な「人民の人民による人民のための政治を」という3分間の名演説を行いました。

やがて北軍が勝利すると「黒人も当然、人である」という主張がアメリカの新しい常識になりました。

ただしその主張をどうしても受け入れがたかった人たちもおり、人間の解放を賭けた南北戦争が終わったたった5日後の1865年4月14日、リンカーンは観劇中に射殺されました。

まだ56才でした。

アメリカ合衆国憲法修正13条は、その1865年に成立したものであり、アメリカでは、この年にようやく奴隷制度が廃止されたのです。

わたしたちの国の憲法18条も、アメリカ合衆国憲法修正 13条第 1節にならい、身体の自由を広く保障しようとしています。

そしてその精神を受けて、職業安定法は第32条で有料職業紹介事業の禁止を定めています。

端的に言えば、口利き屋とか手配師と呼ばれる人たちによって過酷な労働条件へ労働者が送り込まれたり、彼らによって給料がピンハネされたりすることを禁止しようとする条文です。

それはまさにアメリカ合衆国憲法修正13条第1節にいう「不本意な労働」にほかなりません。

今回の件でいえば、本来の自分の取り分が派遣会社に数割知らないうちに取られながら働いていたという状態です。

テキサスというバリバリの南部からやってきた企業が、有料職業紹介を無許可で行ってしまう過程において、担当者は「ちょっとマズイんだけどなー・・・」という感触を果たしてもっていなかったのでしょうか。

同じ処遇を彼の家族がされたとしても平気な内容だとすれば、きっとそうだったのでしょう。
 

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