UFJカードの情報流出と商いという催眠

UFJカードで不正利用 米カード情報流出 (産経新聞)

刑法の246条の2をご覧下さい。

第246条の2 (電子計算機使用詐欺)

「前条に規定するもののほか、人の事務処理に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与えて財産権の得喪若しくは変更に係る不実の電磁的記録を作り、又は財産権の得喪若しくは変更に係る虚偽の電磁的記録を人の事務処理の用に供して、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者は、十年以下の懲役に処する。 」

246条2項の詐欺利得罪を成立させるには、処分権限を有する人が錯誤に陥ったことが必要です。

この点、コンピュータを介した犯罪では欺かれるのが人間ではないため、欺く行為,錯誤という要件が欠如し、詐欺利得罪は認められないと解釈されてきました。

そのため新設された246条の2前段は、行為者の直面に人がいない状態で行われる電子的詐欺行為に対して詐欺罪を成立させることに障害をなくしました。

本条では、たとえば銀行員が恋人の口座残高を不正入力で勝手に増やしてしまうような行為が想定されていますが、拾得した他人のカードの不正使用もこれに該当するといわれています。

この為、もしこの流出したクレジットカード番号を利用して、インターネット上でなんらかの不正な利益を取得しようとしたものは日本国刑法が及ぶ人なら10年以下の懲役刑になります。

ただしこの場合被害者はあなたではなく、クレジットカード会社であるといわれます。

カード番号を打ち込まれて、カメラなりバッグなりを送ってしまった加盟店は、結局クレジット会社から代金の支払を受けますから、加盟店自体には損害はなく、損害があるのはクレジット会社だからです。

そして、クレジット会社は加盟店に対し、代金立替払義務を負っており、加盟店はクレジット会社の財産を処分する地位にあるといえますので、入手した他人のクレジットカード番号で加盟店ホームページを欺罔し、加盟店によってクレジット会社に代金を立替払いさせるという処分行為をさせ、犯人は代金の支払義務を免れるという2項詐欺罪が成立するという構成です。

このように詐欺という犯罪を成立させるには実は法学上やたらとややこしい問題がつきまとい、あっさり結論がでないことが多々あります。

それはひとえに商人の行うある種の演出、催眠という、一定程度の欺罔部分はあえて社会の潤滑油として認知されているからではないでしょうか。

たとえばもともと3万円で仕入れてきた宝石を、20万円で売って利得を得る行為でも、それが銀座の宝石店で行われていれば詐欺とはならず商行為と呼ばれますし、また私たちはそれが原価でないことは十分承知の上で、高級な幻想を買うべく装飾を施された表参道の一等地に建つビルで、ビニール製のバッグに何十万円も支払いますが、誰一人交番に駆け込む人はいません。

商行為の仕組みに多分に構造が重なってしまっているため、詐欺罪を成立させるのは時として非常に難しくなる場合がありますが、それが良質な催眠なら、私たちはそれを欺罔行為とはあえて呼ばないのです。

今回欺罔した、あるいはすると憂慮されるのは不正入手した他人のクレジットカード番号を持つ人間ですので、代払いサービスを提供するクレジットカード会社のほうは、ゆめゆめカードを利用されてしまった人に対して請求などしないよう、良質なサービス(催眠)を提供し続けて欲しいものです。
 

 
法理メール?