偽装ボランティア団体が社会の善意を痩せ細らせる

元本保証と高配当うたい会員2,000人から20億円を詐取 NPO法人元代表理事ら5人逮捕(FNN)
「やまびこ会」のPRビデオの中で、正式に認証されたNPO法人であることを強調し、ダイオキシンを全く出さないという夢の焼却炉を販売して、その利益を聴覚障害者の支援に当てるとアピールする。この焼却炉の販売会社設立集会で、松井容疑者は「お金がないとボランティア活動というのは絶対続かないということですね」と話していた。」

NPO法の43条2項をご覧下さい。

特定非営利活動促進法

第43条(設立の認証の取消し)
「2 所轄庁は、特定非営利活動法人が法令に違反した場合において、前条の命令によってはその改善を期待することができないことが明らかであり、かつ、他の方法により監督の目的を達することができないときは、同条の命令を経ないでも、当該特定非営利活動法人の設立の認証を取り消すことができる」 

たとえば三菱自動車が、法律から集団としての独自の人格を与えてられていないただのチームだとすれば、「欠陥があったの?申し訳ないけど関係者が43000人以上いるからねー、責任取る人がでてくればいいね」といわれることになります。

それに「それを作った頃は責任者の山田さんが在籍したけど、今は辞めたから俺たちは知らないよ」とも言われかねません。

団体の実態は構成人の増減には関係なく、団体という観念そのものが社会の中で主張したり怒られたりしているはずです。

別の言葉で言えば、社長の行動は当該団体という観念そのものの行動とみられますし、本社ビルや備品や保養施設は、団体という観念そのものの財産であるはずで、決して総務課長個人のものではないはずです。

そればかりか社会はその内部で複合的に団体観念の独歩を認めることで個人ばかりしか存在しない世の中よりも急加速的にその発展を遂げたはずです。

○○建設という責任をとれる集団がいない、大工さんばかりの世の中ではビルの数も相当少なかったに違い有りません。

そしてもし集団という観念がそこまで社会を事実上突き動かしてきた存在ならば、社会関係を規律する法律が関わらないわけにはいきません。

彼らを法律的立場で保護、あるいは追及される地位を事前に与えておく必要が発展的秩序をもたらします。

これが法人というものが世の中のあちこちにある理由です。

いわば観念自身が権利義務の主体になれる資格ということになります。

そしてただの観念を法的主体にする理論的根拠を、現在の学説上の通説は、○○会社という観念も社会で仕事をしていることは同じで、ただの観念といえども現実に社会に成果をもたらしているのだという点に求めています。

これを法人実在説と呼びます。

いわば「俺たちいっしょにやっていこう」というアイディアの集合にすぎないふわふわしたものを、法はその現実的効用を鑑みてあたかも人のように扱うことを決めているのです。

しかしそのもともとふわふわしたもの、無制限に法人格を与えていては、そのアイディアの集合体に自分の財産をもって関わる人の暮らしを破壊してしまうかもしれません。

そこで法は株式会社や有限会社の設立に、非常に厳しい要件を要求して安易にこの法人という制度を悪用・濫用されないように警戒しています。

しかし世の中にはそういった要件をクリアできなくとも、社会の弱い立場の人を助けられる小さな団体が一生懸命活動しています。

NPO法人は、それまでそういった厳しい要求に応えられたかった市民団体やボランティア団体が抱えていた運営上の不都合を解消するため、今から7年前施行された特定非営利活動促進法により、簡単な手続きと要件だけで法人格を与えようとした新しい制度です。

但しよくご着目ください。

通常の法人もNPO法人も、いずれも法が権利義務主体性を与えることと引き替えに期待しているのは、そのアイディアの集合体の中核に、社会を発展、補正させていくための善意が内包されていることにあります。

それゆえに、もし当該NPO法人が内部に善意を抱えないばかりか、むしろ関係した人たちの財産を奪い、社会秩序を疲弊させることが明らかになれば特定非営利活動促進法はその43条をもってアイディアの集合体から権利義務主体になる資格を剥奪することを規定しているのです。

ボランティアや市民団体の活動という行政の仕事を別角度から補充してくれることからこそNPO法は他の法人制度にくらべて行政庁の裁量や関与が少なくなるよう設計されています。

聴覚障害をもつ人を助けるはずだった「やまびこ会」なる企画は、法の期待が与えた信用を逆手にとって社会のあちこちに大きな落とし穴をつくりました。

こういった法の期待を裏切る行為の一つ一つが、NPOという本来受け取りやすく作ったはずの衣を祭壇のより深い場所に移してしまい、ひいては取引ばかりで善意のやせ細った社会を、やらかした本人の子供にも手渡すことになります。
 

 
法理メール?