法人格否認の法理と許されざるデコイ

北朝鮮船18隻 国交省ずさん審査 契約の保険会社、支払い拒否“常習”(Yahoo)

「問題の保険会社のオーナーは、イギリス南部に在住するといわれているが、このオーナーがかつて経営していた別名称の保険会社は平成六年、ホンジュラス籍船と韓国船が衝突した死亡事故の際にも東京地裁に提訴され、二億八千万円の支払い判決(十二年一月)を無視。保険会社は事故後、倒産を理由に支払いを拒み、「保険の支払い、信用力への不安が排除できない」(政府関係者)という。」

商法の54条第1項をご覧ください。

第54条〔法人性・住所〕

「1 会社は之を法人とす(以下略)」 

改正船舶油濁損害賠償保障法が成立した時、話題になったのは「果たして北朝鮮の船を受け入れる保険会社があるのか?」というところだったと記憶していますが、ここにきて突然「不良保険会社を計画倒産させる者がいるとき、船舶油濁損害賠償保障法ザル法になるのか?」という法人制度そのものの扱いに関する論議に変わったようです。

法人とはそもそも団体に所属する個々人に権利を与えたり、責任を負わせず、団体そのものにそれらを与えようとする法技術です。

ここにいたって団体という観念は、理論上一人歩きすることを社会から許可されることになります(私的定義)。

もともと集団には手も足も顔もなく、その本質は観念でしかありませんから、一旦これを悪用しようとすれば、法人格を当てにしている社会は大変な損害を被ることになります。

それがたとえば法人格を消滅させることを前提に財産をとりこみ続ける計画倒産といわれる行為です。

そこで社会はこれに対する防衛策を講じる必要がでてきます。

それが「法人格否認の法理」と呼ばれる法学理論です。

法人格否認の法理とは独立の法人格を持つ会社について、その形式的独立性を貫くことが正義公平に反すると認められる場合に、特定の法律関係に限って会社の独立性を否定して、会社とその背後の実体とを同一視する法理をいいます。

法人格を濫用しているような場合には有害でしかない以上、認められている法人格を強引に否認してしまうというものです。

これは非常にイレギュラーな判断になりますので、法人格否認の法理の適用のための要件としては、会社を利用する背後者が実質的支配力を有することのみならず、その支配的地位を有する者が会社の法人格を利用して、契約上の義務・法の適用を回避しようとする違法な目的を有していることまで要求されます。

外形および主観の両面で法人格濫用が認められれば、たとえば件の英国人経営者の経営する保険会社は(極単純モデルにおいて)日本における法人格を否認され、英国人個人の責任追及に入っていけることになります。

ただし現実的には、そこには国家の統治権の問題が横たわりますので、事前に当該保険会社法人の背景を十分精査することが最善策であることには間違いありません。

集団という概念そのものに与信を享受する能力を与える法人ルールを決めたおかげで、私たちの意識は多重拡張することを許されました。

もしそれをおとりとして腰にぶら下げるハンターを見たら、司法は彼を追及しなければなりません。

彼のデコイ(おとり)が浮かぶことを許してしまえば、全ての鳥(法人)の水面下の足が怪しくみえてしまうのです。
 

 
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