不同意堕胎で医師逮捕へ 交際相手に投薬疑い 警視庁(産経新聞)
「妊娠した交際相手に「栄養剤」と偽り子宮収縮剤を点滴して流産させた疑いが強まったとして、警視庁捜査1課と本所署は17日、不同意堕胎の疑いで、石川県内の大学病院に勤務する30代の男性医師について、18日にも逮捕する方針を固めた。捜査関係者への取材で分かった。刑法で定められた「堕胎」の関係条文が適用されるのは極めて異例。捜査1課は、医師の知識と立場を利用した悪質な犯行として、強制捜査の必要があると判断した。」
刑法の215条をごらんください。
第二百十五条(不同意堕胎) 「女子の嘱託を受けないで、又はその承諾を得ないで堕胎させた者は、六月以上七年以下の懲役に処する。 2 前項の罪の未遂は、罰する。」 |
不同意堕胎罪とは、妊娠している女性が頼んでもおらず、また承諾していないのにおなかの子供を中絶させてしまうことをわたしたちの刑法が罰するものです。
刑法典にある堕胎の罪の章において、自己堕胎罪(212条)や同意堕胎罪(213条)、業務上堕胎罪(214条)らに未遂の罪はありませんが、こと不同意堕胎罪に限っては、それが未遂でも処罰されることになっています。
本罪は、妊婦の身体に対する同意のない傷害行為なので、堕胎の罪のうちで最も違法性が強く、したがって未遂も処罰されるのです。
そして法定刑も自己堕胎が1年以下、同意堕胎が2年以下の懲役で比較的軽いのに対し、不同意堕胎は6月以上7年以下の重い懲役刑が定められています。
その刑法215条が護ろうとしている法益は、まず第一に胎児の生命です。
また不同意の堕胎の方が自己堕胎より重く処罰されることから、母の生命・身体も215条の保護法益であるとも推測できます。
とはいえ世の中では堕胎罪に該当する行為が毎日行われているのが現実です。
しかしそのほとんどは昭和23年に制定された優生保護法で正当化されていて、裁判はもとより捜査の対象になることもほとんどありませんでした。
平成8年には優生保護法は母体保護法に改正されましたが、その緩やかな法解釈により、堕胎罪が厳しく適用されるようなことはこれまでありませんでした。
母体外で生命を保続できない時期以降の堕胎行為は、母体保護法をもってしても正当化されることはありません。
そしてその母体外で生命を保続できない時期は、厚生省の通達により昭和28年以降満28週未満とされていましたが、昭和51年1月に満24週未満と変更され、さらに平成3年1月以降は満22週未満とされています。
現在の人工妊娠中絶件数は,届出られた数だけでも289,127件でそれ以外にもかなりの暗数が存在すると推測されています。
しかし不同意堕胎という罪は、ひときわ残忍な罪質がひそんでおり、それが故にわたしたちの刑法は本条だけを未遂犯の処罰対象としているのです。
(以上参照:刑法各論講義 第4版 )
ある種の事情をもつ人たちにとって、新たな生命の誕生はひとつの”記号”でしかないかもしれません。
そして実は私やあなたの命も、他の人の事情によって”記号化”扱いされてしまう危険性がいつでも待ち構えています。
憲法が刑法215条の手を通して、母胎と胎児の両方の手に「尊厳」という護符を最初に握らせているのも、そうした危険な意図から護ろうとしているのです。(私見)