高飛びの道具はヨーロッパ人権条約

銀座の35億円貴金属強盗、男女を欧州で拘束(Yahoo)
「日本とセルビア・モンテネグロの間には、犯罪人引き渡し条約が結ばれていないため、2人の身柄は日本に移されず、現地の国内法に基づいて処罰される見通し。」

通称、「ヨーロッパ人権宣言」の第3条をご覧下さい。
 

人権及び基本的自由の保護のための条約

第3条(拷問の禁止)

「「何人も、拷問または非人道的なもしくは品位を傷つける取扱いもしくは刑罰を受けない。」

(原文)

Convention for the Protection of Human Rights and Fundamental Freedoms.
Article 3 Prohibition of torture.
No one shall be subjected to torture or to inhuman or degrading treatment or punishment.」
 


一般国際法上は、犯罪人の引渡しは国家の義務ではありません。

よってこれが執行されるときは各々の国同士で結んだ条約にのっとることになります。

また正規の引き渡しがいろいろややこしい障害で難しいとき、犯罪人引渡しは請求国を送還先とする退去強制措置をもって行われることがあります。

この裏技を偽装引渡しといいます。

公のまな板を通過していないので、これをやられると一番まずいのは犯罪人本人の取り扱いです。

銀座の外国人強盗団の引き渡しは日本国によって公式に要請されていますので、この点犯罪人グループの人権は確保されているように見えます。

細かい法的取り決めは別として、本質的には一体何がヨーロッパから犯罪人たちをひきとることを阻んでいるのでしょう。

この本質を扱った判例にゾェーリング事件というものがあります。(参照:現代国際法講義 有斐閣

その事件では、死刑があるアメリカ・ヴァージニア州から、死刑のないイギリスに逃げていた殺人犯の引渡しが問題とされ、ヨーロッパ人権裁判所は、死刑が執行される可能性がある以上、冒頭ヨーロッパ人権条約第三条の違反を生じさせると判示して、引き渡し条約があったにもかかわらず引き渡しを許否しました。

ヨーロッパは本質的に日本の死刑制度を継続している根本的精神構造を警戒しています。

(セルビア・モンテネグロ欧州評議会に加盟しており、欧州の意識の一部となっています。)

法律を学ぶ人は誰でも、憲法において世界人権宣言にさらっと触れますが、実際に監獄で拷問を受けている人、たとえば先般表面化した名古屋刑務所での虐待を受けていたような人たちは、まさか世界人権宣言で実際に自分が拷問から助かるとは思っていません。

それは所詮ただの宣言にすぎないため、彼の刑務所での扱いをただす術にはなりえないのです。

そのためその後、国際人権規約自由権規約が手当され、一応拷問を科す国家は国際的に避難されることになりましたが、それでも実際に犯罪人への不要な拷問の実態は外に出す手段がありませんでした。

そこで欧州各国はヨーロッパ人権条約を締結し、檻の中の地獄をせめて欧州内では描かせないように実効性を確保しています。

しかもこれを扱うヨーロッパ人権裁判所は国家を超えて設置されており、条約に締結したどの国の政府からも自由な立場で裁定を下せるという実効性の確保に成功しています。

そしてそれらを成功させた歴史をささえたのは、各国民の共有する幼い人や貧しい人にもある「命の位」に対する意識に他なりません(私見)。

日本で大々的に基地を展開し、引き渡し条約が存在する米国でさえ、日本の司法システムにおける犯罪人の権利保護システムを不十分と見て、場合によっていまだに犯罪人を引き渡すのを拒むことがあります。

刑務官が受刑者に拘束具を着せたまま行う虐待よりもさらに先にある国家による断命、死刑に対する私たちの意識がもしこの先変わり、人権裁判所の活動を日本政府も受け入れるようなが時代がきたならば、強盗団のメンバーとしては、欧州が引き渡しを拒むような別の国を選び直して宝石を漁らなければならないはずです。
 

 
法理メール?