「覚せい剤取締法違反(所持、使用)の罪で起訴された女優の酒井法子被告(38)について、東京地裁は14日、保釈を決定した。保釈保証金は500万円。弁護人が同日付で保釈を請求していた。酒井被告は8月3日に東京都港区南青山の自宅マンションで、覚醒(かくせい)剤0・008グラムを所持した罪で同月28日に起訴された。さらに7月30日に家族で訪れた鹿児島・奄美大島のホテルで覚醒剤を吸引したとして、使用罪で9月11日に追起訴された。」
刑事訴訟法の89条4号をご覧下さい。
89条 「保釈の請求があつたときは、次の場合を除いては、これを許さなければならない。 4 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。」 |
保釈とは、保証金を納付させ、不出頭の場合没収するという条件で威嚇し、被告人を暫定的に保釈する制度のことです。
保釈された人も、法観念的には勾留が維持されています。
刑事訴訟法の89条は、裁判所に対して”保釈を許さなければならない”と定めており、この形態の保釈のことを、保釈のなかでも権利保釈と呼んでいます。
権利保釈といっても、そこにいう権利は当然ながら憲法34条にいうところの”正当な理由なく拘禁されない権利”のことではありません。
なぜなら保釈とは、そもそも勾留の理由と必要性があることを前提に行われる処分であって、その拘禁にははじめから正当な理由が存在しているはずだからです。
ただしだれもが被告人を保釈することのリスクとして思い当たるように、罪証隠滅が疑われる場合には、権利保釈することはできません。
これが89条4号ですが、その罪証隠滅の対象は公訴事実に限定して解釈すべきであると考えられています。
なぜならばもしあらゆる証拠隠滅を防ごうとすると、その解釈範囲は際限なく広がることになってしまい、保釈制度が無実化するからです。
そもそも勾留の要件・手続は、被疑事実を単位にして定められています。
そのため、その効果も勾留状に記載された事実についてのみ及ぶことになります。
したがって勾留の理由とされていない余罪の罪障隠滅を憂慮して、保釈を否定することはできないのです。
これを事件単位の原則と呼びます。
酒井容疑者は、自宅での覚せい剤所持、および奄美大島での覚せい剤使用の両容疑についての両公訴事実についてのみ罪障隠滅の可能性などを考慮され、保釈という一定の自由が与えられたというわけです。
保釈中のそのほかの余罪についての振る舞いは、彼女に一任されています。
彼女がこれからまた真の自由を獲得し直せるかどうかは、刑事訴訟法というとても慎重な法の思想の意味を、彼女の人生の転機においてどう捉えられるかという点にも、一面かかっているのかもしれません。(私見)
(以上参照資料)