お金の急流で信義は溺れるだろう

「新SASUKE」収録で5人重軽傷(スポーツニッポン)
「収録は一時中断後に続行、番組は21日に放送された。TBSは「担当者が詳細を把握しておらず、4月2日に詳しい経緯が判明した」として、3日に事故を神奈川県警青葉署に届けた。同社広報部は「今回、事前にスタッフが安全を確認していた。収録時には安全管理責任者を必ず置くように指導している。原因は調査中」と話している。(共同) 」

民法の717条1項をごらんください。

第717条(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)

「1 土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。」 

あなたが運動施設に安全配慮が欠けていたり、欠陥があったために怪我をした場合、民法の717条の工作物責任による施設管理者・施設所有者の責任追及ができます。

土地の工作物の設置に瑕疵が、つまり欠陥があったことで損害が生じれば、工作物の占有者である施設管理者が賠償責任を負うことになります。

ただ、損害発生を防止するに必要な注意をしていた場合は、工作物の所有者である施設所有者が責任をおいます。

717条は危険責任に基づく無過失責任、つまりたとえ故意や過失がなかったとしても損害賠償を問われる責任です。

それは危険性を有する施設の管理を厳格にさせようとした規定だからです。

土地の工作物には、土地に接着して人工的に作られたあらゆる設備が該当します。

「設置・保存に瑕疵がある」とは、通常備えるべき安全な性状を欠いていることをいい、当初からそれが存在する場合が設置の瑕疵、設置後に生じた場合が保存の瑕疵です。

たとえ個別の法規に従って設置されていたとしても、事故後の判断によっては瑕疵があると判断される場合があります。

さらに設置後の事情の変化に伴って生じる危険、たとえば何人もの競技者がぬれた足でその施設を通過すれば、危険度が増すような場合にも対処できていなければ瑕疵となることもあります。

それは設置・保存行為と切り離し、工作物の客観的性状としての危険性に重点をおいて判断するのが一般的なのです。

損害の発生を防止するに必要な注意をしていた場合には、たしかに占有者はその責任を逃れ、施設の所有者に責任が移行することになりますが、必要な注意を払ったといえるためには損害の発生を現実に防止できるだけの措置が必要で、単に事故に注意してくださいなどという書面を配った程度ではその責任を逃れることはできません。

さらにこうした主催者には安全配慮義務という法的義務が課せられています。

その根拠条文は民法の1条2項、必殺の信義誠実の原則です。(以上参照:青林法律相談(28)スポーツの法律相談 青林書院)

たとえスポーツには危険が内在しているとはいえ、それを主催することにより莫大な利益をスポンサーから得るTV局、すなわち一企業には、競技参加にアクロバティックな動きを要求される参加者の安全をまず第一に確保する信義誠実上の義務があるのです。

TBS広報のいうとおり、安全管理義務者がいたとすれば、その安全配慮義務には、当然に事故発生後の公的機関への報告も含まれるものと考えられます。

なぜならばその時点で現場を保存することにより、損害の原因と法的責任の所在を明確にでき、被害を負った人の損害の回復がはかりやすくなるからです。(私見)

これを放映後までなさない態度は、スポンサーのCM放映を参加者の法的権利確保よりも優先したものだといえます。

民放TV番組制作の現場では、わたしたち一般視聴者の意見など、実際にCM料を入金してくれるスポンサー企業のそれに比べて、驚くほど軽視されているのだといいます。

コマーシャル・スポンサーはそのテレビ局に莫大な利益をもたらす最大のタニマチであり、タニマチにとってもテレビは現代最強の広告媒体です。

しかし誰かの生命や安全が、巨額を支払うスポンサーへの忠誠と比べ軽視されるビジネスがあるのだとしたら、それは法を踏みつけた商いしているといわざるをえません。

そしてそういったお金の急流はTV業界といった極限られた場所にだけ起こっており、お金のあまりの勢いに内部の人は信義則上の異議など誰も言い出せなくなっているというのが本当のところかもしれません。

 

 

法理メール?  * 発行人によるメールマガジンです。