地中の仮面は混沌の住処

日本最古の人面彫刻? 東名遺跡から木製品(佐賀新聞)
縄文時代早期の貝塚群がある東名遺跡(佐賀市金立町)を調査している佐賀市教委は15日、人の顔のように彫った約7000年前の木板が出土したと発表した。人面であれば縄文時代の出土例はない。市教委は「面とは断定できない。ただ日用品ではなく祭祀(さいし)、儀礼で使ったもの」とし、当時の精神世界を知る貴重な資料になりそうだ。」

文化財保護法の92条1項をごらんください。

第92条(調査のための発掘に関する届出、指示及び命令)

「1 土地に埋蔵されている文化財について、その調査のため土地を発掘しようとする者は、文部科学省令の定める事項を記載した書面をもつて、発掘に着手しようとする日の30日前までに文化庁長官に届け出なければならない。(以下略)」 

祭祀に使われる仮面とは、どのような役割を負うものなのでしょう。

たとえば北米インディアン、オノンダガ族は、祭祀時に「歪んだ顔の仮面」を使います。

彼らの神話の中によれば、仮面の顔が歪んでいる理由はこうです。

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「創造主は仕事を終えた後、創造したものを調べ悪霊を追い払うために方々を旅した。

世界の西の端まで行ったとき、彼は巨人に出くわした。

それはすべての顔の長だった。

創造主は巨人にどこから来たのか尋ねた。

その見知らぬ者は自分はロッキー山脈の向こうからやってきたといい、自分が大地を創造し、それからずっと住んでいると答えた。

それから二人は、どちらが本当の創造主なのかをめぐって口論となり、議論に決着をつけるために競争することにした。

勝った方が世界の創造主の称号が与えられることになった。

それぞれが魔術で遠く離れた山を呼び出すことになった。

そこで彼らは背中を西に向けて座った。

巨人は亀でつくったガラガラを振り、すべての動物を怖がらせて、山に向かって叫んだ。

しかし山はほんの少ししか動かなかった。

それから創造主が叫んだ。

すると山はただちに彼の所までやってきた。

これを見て巨人は激怒し、背後の山をみようと素早く振り向いた。

巨大な岩が彼の顔にぶつかった。

この衝撃で彼の鼻は折れ、痛みで顔は歪んだ。

創造主は勝ったが、たとえ山が自分の魔力の方に完全に反応したとしても、巨人もたいへんな力があると認識した。

そこで創造主は巨人に地上のあらゆる病気を追い払い、旅や狩りをする人々を助ける仕事を与えた。

その代わりに巨人は、もし人々が彼の肖像画や面をつくり、彼を先祖と敬い、煙草の捧げものをしてくれれば人間にも病気を治す力を与えることにした。

創造主は世界の西の端に方に巨人の住む場所を与え、巨人も人々が助けを求めて彼のところに来たらいつでもそれに応えることにした。」

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神話では巨人はたいがい宇宙の秩序に対立する力を意味します。

にもかかわらずオノンダガ族の神話では、創造主は巨人の力を自分の計画に統合しています。

また夢の世界では、巨人とは自己主義、攻撃、破壊的衝動など陰の性質を象徴するものです。

そして同時に陰は、自我が必要とするエネルギーや才能が住む場所です。

その陰が勝手に動き出し、混沌とした無意識の状態に戻らないようにしてこの関係の責任を持つのが自我です。

それが彼らの神話でいう巨人と創造主の関係であり、仮面は陰という混沌のエネルギーを象徴しているといえます。

(以下参照:元型と象徴の事典 ベヴァリー・ムーン 青土社

創造者と巨人、あるいは秩序と混沌の関係は、法が土くれの中の木片を捕捉するための手続を、文化財保護法92条で用意していることの中にも見ることができます。

創造者がそうだったように、現代の秩序を司る法も、カオスに還った過去の文明の痕跡に期するものがあるのです。(私見)

 

 

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