自然法という青い鳥のいる場所

三井住友銀、行政処分へ 地位濫用で初 (産経新聞)
「三井住友銀は昨年12月、優越的地位の乱用にあたる違反行為が10数件あるとして公正取引委員会の排除勧告を受けた。金融庁公取委の排除勧告を踏まえ、三井住友銀に対し、他の融資でも優越的地位の濫用がなかったかどうか報告を要求。三井住友銀は約1万件におよぶ同行の全デリバティブ取引について調査し、今月までに段階的に金融庁に結果を報告してきた。」

公取委57年告示の第15号の第14項1号をご覧下さい。

不公正な取引方法(抄)(昭和五十七年六月十八日公正取引委員会告示第十五号)

「14〔優越的地位の濫用〕

自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、次の各号のいずれかに掲げる行為をすること。

一 継続して取引する相手方に対し、当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務を購入させること。(以下略)」 

独占禁止法はその19条で「事業者は、不公正な取引方法を用いてはならない。」と定めています。

独占禁止法上にいう不公正な取引方法とは、公正な競争秩序を阻害する行為のことで、独禁法はこれを類型化しています。

類型は公正取引委員会の告示によって行うことが独占禁止法の72条で定められています。

告示により全事業分野における事業者に対して適用されるものを一般指定と呼びます。(特定事業者に関するものを特殊指定といいます)

一般指定はもともと昭和28年の独占禁止法の改正と同時に告示され、かつては12の行為類型を不公正な取引方法として指定していました。

これを旧一般指定と呼びます。

優越的地位の濫用について旧一般指定では、第10項で「自己の取引上の地位が相手方に対して優越していることを利用して,正常な商慣習に照して相手方に不当に不利益な条件で取引すること」とだけ規定していました。

ただ旧一般指定の規定は抽象的・一般的すぎて、どのような行為が不公正な取引方法に該当するか必ずしも明確ではなかったことから、行為類型の明確化を図るため旧一般指定は全面改正され、昭和57年に16の行為類型を不公正な取引方法として指定しました。

これが公取委57年告示、第15号です。

改正された一般指定第14項では,優越的地位の濫用行為を5つの行為類型に整理し,濫用行為の具体化・明確化を行っています。

これによりいわゆる押し付け販売が同項第1号で規制されることがより明確にされています。(参照:大規模小売業告示の解説―独占禁止法による優越的地位の濫用規制 粕渕功

融資を実行する銀行は立場上融資を待つ事業者に優越、場合によってはその事業の成り行きの生命線を握っており、無理矢理金利スワップを購入させるのは公取委告示15号第14項第1号にズバリ該当し、独占禁止法第19条の規定に違反しています。

しかしわたしもあなたもすぐ気がつくように、このような度を超えたパワーバランスによる不公平取引の強要は、今もこの国のあちこちで行われているに違い在りません。(公正取引委員会は常に思わぬ大企業に対して警告を発しています)

スパルタがアテネをやぶり、ローマ帝国を滅ぼしたように、現実に玉座に座った実力者が発表する取り決めこそ法体系なのだとしたら、私たちにできるのは「今回の王の法」を精緻に調べてできるだけ最も強い人に無茶を言わせないようにするだけです。

ただし帝国主義の嵐が世界を燃やし尽くしてからこちら、世界の趨勢は法体系の向こうに「時の王の前にもあるべくしてある秩序」の存在を想起することにしています。

これを自然法思想と呼びます。

それは法実証主義とは世界の解釈の出発点をそもそもたがえており、いつも強い人と弱い人が混在する世界で、優越的地位が濫用されることを不愉快に感じる無言の自律性が万在するのだと見るものです(私見)。

しかしそれは生きていくことの前には、いつも姿が薄すぎて見過ごされてきた、はかない存在でもあります。

それゆえわたしやあなたは生きているあいだ、そうした不具合を少しずつ見つけては、是正していかなければなりませんし、その地道な努力は、”自然法とは、他でもないわたしやあなたの一生のことであったのだ”ということを間際に気づかせるものかもしれません。


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