ライブドアショックとオフサイドコール

ライブドア、利益還流工作03年から 宮内取締役が考案(朝日新聞)
ライブドアが使ったとされる手法は(1)実質支配していることが明らかになりにくい投資事業組合を使って企業を買収(2)この企業を、ライブドア側が現金なしで買収できる株式交換で子会社化(3)それに前後し、交換に使った自社株の分割を発表、株価が高騰した自社株を売却して利益を還流――を組み合わせたシステム。証券取引法違反容疑で捜査している特捜部は一連の行為が、株価をつり上げて巨額の利益をライブドア本体に還流させるのが狙いとみている。」

商法の218条をご覧下さい。

第218条〔株式の分割〕

「会社は取締役会の決議に依り株式の分割を為すことを得(以下略)」 


株式分割とは、たとえば1本1万円では高すぎておいそれとは買えない松茸を八百屋さんが5分割して一部分2000円にして売ってくれる要領で、会社の株式を細分化することをいいます。

もともと株価推移のモニターを見つめる人達は、本来株式を所有し続けることによるリターンとリスクを予測して、狙いを付けた株式の購入、あるいは保有する株式の売却等を決定します。

ここで株価の決定はもちろん会社の業績に大きく影響を受けますが、その他にも社会情勢や新しい法制度の予測などの外部要因、そしてなにより各投資家自身の心理的要因に大きく影響されながら常に大きく変動を続けます。

未来を予測することは誰にも出来ない以上、未来の価値を予告するプライスである株価が必ずしも会社の適正価格が直接反映されたものである保障はどこにもありません。

むしろより本質的には人々の思惑にこそ影響されて変動し続けるプライスタグだといえます。

そしてそういった移ろいやすい株価の性格は、いつのまにかどこかの景気のいい会社の株式の値段を個人投資家にはとても手の届かない価格に押し上げてしまう可能性を含んでいるため、そうした株価を低くしたり、あるいは株式の数量を増やしてその市場性を高めたりするために行われるのが、商法218条の認めた株式分割です。

株式分割という、どの投資家の目にも刺激的な動きは、いかにも活発な会社である印象を与え、かつ実際にふくらんだ分の株式が既存株主の手に届くまでには発表から数十日のタイムラグがあるという手続上の側面をもちます。

凄まじい数の株式分割が会社買収のニュースとセットで伝えられれば、その会社の株を「買い」だと読んだ相場全体に枯渇感を与えるには十分だったようです。

ライブドアがもし適法の範囲を超えて情報操作を行いながら、株式分割と企業買収の発表を繰り返していたとするならば、少額資本を市場から大量に集めようという株式会社制度そのものへの信頼を損なう結果を招いてしまいますし、現に市場は大混乱に陥りました。

実は以前の商法は株式分割による果てしない細分化を警戒し、一定程度の歯止めをかけていましたが、平成13年の改正によりこれが撤廃されました。

それは法制度が株式市場を信頼し、自由経済化をより促進させるための一場面でしたが、堀江さんやその仲間は、きっとそうした新しい法のラインギリギリのグレーゾーンをゲームを攻略するように歩んでいたのかもしれません。

現実に株式交換株式分割は有名大手企業も行っていますし、情報をせき止めたり渡したりするのは所詮人間でしかない以上、多くの企業が今日もグレーなゾーンを歩いています。

しかし「フェアな状態を要求する」という市場は、必ずしも目に見える法のラインと全く同調しているわけではなく、そのアンフェアな度合いによってはグレーだったゾーンを黒にするための機能を備えています。

プレーヤーにオフサイドコールをするのです。

それが証券取引法158条の「風説の流布の禁止」であり、また159条の「相場操縦の禁止及び安定操作の規制」等の条文であると言うことが出来ます。