天下一家の会の幕引きと防衛的トランスフォーム

天下一家の会、最終配当率34%で手続き終了~破産から25年(読売新聞)
「第一相研は67年に開設され、「10万円が500万円になる」などの文句で急速に会員数を伸ばした。被害者は延べ約112万人、出資総額約1900億円に上った。」

無限連鎖講の防止に関する法律の2条をご覧下さい。

第2条(定義)
「この法律において「無限連鎖講」とは、金品を出えんする加入者が無限に増加するものであるとして、先に加入した者が先順位者、以下これに連鎖して段階的に2以上の倍率をもつて増加する後続の加入者がそれぞれの段階に応じた後順位者となり、順次先順位者が後順位者の出えんする金品から自己の出えんした金品の価額又は数量を上回る価額又は数量の金品を受領することを内容とする金品の配当組織をいう。」 

会員になることで一定の金品を上位者に提供する義務を負い、同時に複数の下位者を勧誘すればその人達から金品の提供を受けられるというシステムのことを俗にネズミ講といいます。

加入者が約束通り儲かるためには、その人の下位になる人達が存在し、さらにその下位に加入した人達が儲かるためには、またさらに下位になる人達が存在しなければなりません。

しかし日本の人口が1億2千万人、数学的に考えてこのシステムには最初から行き詰まるを得ない詐欺的要素が含まれています。

天下一家の会なる団体が日本を騒がせた当時ネズミ講自体を取り締まる法律は存在せず、このためこの団体に対する対応としては、事件当時所得税法で強制捜査するしかありませんでした。

現在では無限連鎖講防止法、通称ねずみ講防止法が立法され、その第1条において「この法律は、無限連鎖講が、終局において破たんすべき性質のものであるのにかかわらずいたずらに関係者の射幸心をあおり、加入者の相当部分の者に経済的な損失を与えるに至るものであることにかんがみ、これに関与する行為を禁止する」のだとはっきり定めています。

連鎖商法に関しては、関係者、被害者入り乱れてその法的解釈を展開していますが、いったん事が裁判所まで持ち込まれれば、必ずしも「法文にひっかからないときは全て合法」などという判断はなされていないのが現実です。

東京高裁の平成5年3月29日判決でも、厳密に言えば無限連鎖講防止法の2条における定義をもちいると、無限連鎖講には当たるとはいえなかったダイヤモンドを介在させる連鎖商法に関し、「本件組織の本質は,同法1条にいう,『終局において破たんすべき性質のものであるのにかかわらずいたずらに関係者の射倖心をあおり,加入者の相当部分の者に経済的な損失を与えるに至るもの』と同視されるべきなのである。」としました。

そのうえで、「そうだとすれば,無限連鎖講については,これを開設し,運営することが法律で禁止され,刑罰の対象とされていることに鑑み,これと本質を同じくする本件組織についても,これを開設し,運営すること自体が社会的に違法な評価を免れ得ないものというべきである。」という、条文の形式性を離れた実質的な判断を下しています。(出典:商法総則・商行為法 判例百選 有斐閣

司法は一般に思われているほど、連鎖商法の前では杓子定規な解釈はしていないのです。

あなたやわたしの人的ネットワークを、「直接商材に変えてみてはどうだろうか」という価値観の転換を採用してしまった人、すなわちネズミ講やその亜種に加入してしまった人が利益を出そうとするためには、外部からのどのような忠告も「偏見に満ちた雑言」としか聞かなくする心理的障壁の形成が必要になります。

そしてそれは「彼の人的ネットワークを全て失ってしまうまで続くのだ」ということを、天下一家の会という共通の記憶は忠告しているのです。



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