黒幕の離婚と深い緞帳

黒幕の内河所長“偽装”離婚…財産保全狙い? (zakzak)
耐震強度偽装問題の理論的指導者と指摘されているコンサルタント会社「総合経営研究所」(総研、東京都)の内河健所長(71)が、半世紀近く連れ添った妻と今月、離婚したとの疑惑が12日浮上した。だが2人は依然、同居しているという。総研には今後、建築主や施工主らから莫大(ばくだい)な賠償請求も予想され、「万が一」に備えた財産保全のための“偽装”との見方もある。」

民法の742条をご覧下さい。

第742条〔婚姻の無効〕

「婚姻は,左の場合に限り,無効とする。
① 人違その他の事由によって当事者間に婚姻をする意思がないとき。
② 当事者が婚姻の届出をしないとき。但し,その届出が第739条第2項〔婚姻の届出の方法〕に掲げる条件を欠くだけであるときは,婚姻は,これがために,その効力を妨げられることがない。」

離婚届出をなした当事者に、実は離婚をする意思がないのなら、その離婚は無効になります。

それについての明文はありませんが、「婚姻をする意思がなければ、届出があっても婚姻を無効にする」という民法742条を類推し、離婚においても届出があっても「離婚をする意思」がないときの当然の帰結であると考えられています。

問題はなにをもって「離婚をする意思」とするかです。

つまりそれは、真の離婚意思ではなく、「カタチとして離婚する意思」だけでもよいのかという問題提起です。

これを「実体的意思説と形式的意思説の対立」といいます。

しかし判例上は(その理論的根拠はいずれにせよ)一旦出された離婚届があれば離婚は有効であるとしたことが多かったようです。

いずれに学説によっても、そうした判例の動きを論理一貫して説明できるにはするにはいたっていません。

かつて生活保護の受給を継続するための方便としてなされた離婚届の効力について、最高裁は「原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて,本件離婚の届出が,法律上の婚姻関係を解消する意思の合致に基づいてされたものであって,本件離婚を無効とすることはできないとした原審の判断は,その説示に徴し,正当として是認することができ」るとしています。

つまり動機がどうであろうとも、”その届けを出す”という意思があったことには間違いが無く、いまさらそれを無効であるとはできないとしたわけです(昭和57年3月26日)。

コンサルタント会社「総合経営研究所」の内河健所長が突然、同居をしながら離婚届を出したとのニュースが出ていますが、結局離婚の無効は争う余地がないでしょう。

しかし妻の財産を差し押さえることはできませんが、もしも土地や家屋が、突然妻名義に書きかえたなど、状況からそれが明らかに差押えをまぬがれるためと推認されれば、債権者はこれを詐害行為として所有権移転登記の抹消、所有権譲渡の取消しを求めることができる可能性もあります。

判例・通説も、離婚による財産分与(768条)は本来的には身分行為であるため、原則として債権者取消権の対象にならないが、それが不相当に過大であったりしたときは、財産分与に仮託してなされた財産処分行為として取消しの余地があるとしています。

これが民法424条、詐害行為取消権です。

状況にもよりますが、これが認められれば土地や家屋などの財産は内河氏に戻り、債権者は改めて差し押さえることができる可能性があります。

今回の国会の答弁で、内河氏は「約二年前から完全に家庭内別居であった」と唐突な発言をしているのも、なんとなく民法 424条への対策を匂わせています。

いろいろなプロフェッショナルたちにより、カーテンは幾重にも引かれているようです。



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