非弁活動容認と法のボルト

非弁活動事件:容疑者、弁護士印預かる 西村議員関与か(毎日新聞)
民主党西村真悟衆院議員の元法律事務所職員、鈴木浩治容疑者(52)らによる弁護士法違反(非弁活動)事件で、昨年3月、鈴木容疑者が「西村さんが手を引くと言っている」という理由で、知り合いの弁護士に業務を引き継いでくれるよう持ち掛けていたことが分かった。特捜部は、鈴木容疑者が西村議員の「弁護士印」を預かって非弁活動をしていたことも確認。西村議員が非弁活動に関与していた疑いを示す事実として重視している。」

弁護士法の72条をご覧下さい。

第七十二条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)

「弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。(以下略)」 

訴訟委任にもとづく訴訟代理人の資格は,原則として弁護士に限られており、これを弁護士代理の原則と呼びます。

これはそもそも依頼者たる当事者本人の利益を保護するための原則です。

これに対して民事裁判を常に弁護士で行わせようとする原則のことを弁護士強制主義と呼びますが、日本ではこの弁護士強制主義は採用されていません。

弁護士の強制が採用されていないということは、本人が訴訟を追行することも認められているということです。

ただし弁護士代理の原則に違反して,弁護士以外の者までもが訴訟代理人として訴訟行為をなすことは違法となり、違反者に対しては弁護士法上の制裁が科されます。

ややこしい問題として、「ではもう既に非弁護士の追行によってなされてしまった訴訟行為の効力はどうなるのか」という論点があります。

しかし弁護士資格は、弁護士代理の原則が適用される手続では訴訟代理権の発生・存続の要件と考えられ、その資格を欠く人による訴訟行為は無効であるものと考えられます。

つまり弁護士でない人にあなたの訴訟を頼んでも、無資格とバレれば結局訴訟が無に帰してしまう公算が高いのです。

弁護士はその昔、正式名称を代言人と呼称されていましたが、当時三百文もらえば当日代理をひきうけてしまうもぐり代言という人達がおり、彼らのことを三百代言と呼んでいました。

現代でも交通事故などトラブルをかぎつけ、「弁護士に頼むより早く高い賠償金をとってやる」などと後処理を資格なく引き受けてややこしくしてしまう人達のことを三百代言と呼んだりしています。

弁護士法がその72条で、頑なに弁護士以外の人間による訴訟行為の代理を排斥しようとしているのは、狭義には三百代言の昔から他人のトラブルを商機とみて事態をさらにややこしくしてしまう人達のために、結局当事者達のためにならなくなる事態を懸念しているためです。

また広義には、当事者本人の訴訟活動の拡大・当事者権保障の実質化を図り、それによる審理の充実と円滑化を図るという目的もあり、いわば弁護士代理の原則は法体系の秩序全体をかしめるボルトのような役割も果たしています。

弁護士の資格は、一旦開き直って名義貸しなどすれば自ら動くことなくたくさんの三百代言を養うことができ、しかもその上がりを徴収することのできる非常にコストパフォーマンスの高いものです。

しかしその結果、日本の法秩序のボルトをそこら中から緩めてしまうという恐るべき効果を標準装備しています。
 


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