構造計算書の偽造とまだ焦げる土地

マンション耐震強度偽造 揺れる関係住民・自治体(朝日新聞)
「マンションの完成までには多くの場合、開発会社と設計事務所、検査機関、建設会社の4者がかかわる。 建設を企画した開発会社から依頼を受けた設計事務所は、基本設計から実施設計へ進む間に、構造計算を基に建物の骨組みを決める。設計事務所の中には、今回の姉歯建築設計事務所のように、構造計算を請け負う事務所もある。検査機関は、設計図や構造計算書を基に建築確認を審査し、確認済証が出れば建設会社が着工。開発会社は顧客への販売を進める。 」

建築基準法の第6条をご覧下さい。

第6条(建築物の建築等に関する申請及び確認)

「建築主は、第1号から第3号までに掲げる建築物を建築しようとする場合、これらの建築物の大規模の修繕若しくは大規模の模様替をしようとする場合又は第4号に掲げる建築物を建築しようとする場合においては、当該工事に着手する前に、その計画が建築基準関係規定に適合するものであることについて、確認の申請書を提出して建築主事の確認を受け、確認済証の交付を受けなければならない。(以下略)」

住宅を建てるときには建築基準法により、事前にもろもろの書類を都道府県や市区町村などへ提出するか、確認検査員の確認を受けなければなりません。

これを建築確認申請といいます。

ここに入っているものの一つが「構造計算書」です。

建築確認を受けない無届建築物の場合、公庫の融資が利用できない場合もありますので、建築主にとっては建築確認の通過は経済上の死活問題となります。

そして建築主事等の行う建築確認は,建築計画の法令適合性を公権的に判断確定する準法律行為的行政行為になります。

準法律行為的行政行為とは、行政庁の効果意思の表示を要素とせず、行政庁の判断・認識等の精神作用の発現に対して法規が一定の効果を定めている行政行為のことで、確認・公証・通知・受理等がこれにあたります(参照:有斐閣 法律学小辞典)。

法律行為とは、意思表示通りの効果をカッチリ作っていくシステムのことをいい、私人同士では「契約」なんかがその代表例ですが、その思想的根底にはもちろん私的自治の原則という気概が埋まっています。

すなわち、私的自治による社会の構成を円滑にする土台として、行政は法律行為的に許可や認可、特許を行い、準法律行為的に確認、公証、通知や受理などを行い、公の力で私的自治社会に強弱の楔を打ち込むのです(私的解釈)。

建築確認という公権力による楔が打ち込まれれば、そこを足場にマンション建設契約という大がかりな私的自治は、大勢の関係者の幸福背負い工事を着手することになります。

住人など大勢を不安に陥れた今回のようなニュースを前にしては、何故この小さな建築事務所の度重なる計算書類偽造を公権力は見破れなかったのか、そもそも一体どういう作業を根拠にして公権力は日常的に建築現場への準法律的行政行為を打ち込んでいたのか、私的自治をこれ以上危険に晒さないために再確認する必要があります。

構造計算書を要求する建築基準法は、「建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて(第1条)」、昭和25年、つまり日本が戦争に負けてわずか 5年後に公布された法律です。

すなわち、建築基準法第1条にいう「最低の基準」とは、文言通りの、焦土から立ち上がるための最低ラインを意味したものであり、その建築基準法を現代の日本にあっても守れていない建物とは、「焦土よりマシな終戦直後の最低限の基準」をもクリアできていないことを実は意味しています。

「そんな建物があるものか」とお思いかも知れませんが、コストカットを極限まで追求する結果、現在でも多くのマンションが建物の高さ、窓の大きさ、位置を建築基準法ぎりぎりに作られています。

建築基準法は「単なる最低の基準」なのだと再解釈すれば、都内に景気よく林立を続けるマンション群の足場にも未だ焼け野原が見えるかもしれません。
 


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