ベスト電器のネット通販誤表示と商人の誇り

ベスト電器、1000円の郵便為替でおわび・通販誤表示で(日経新聞)
「インターネット通販で液晶テレビの販売価格を1ケタ安く誤表示したベスト電器は8日までに、注文した6400人に一律1000円分の郵便為替を送ることを決めた。」

民法95条をご覧下さい。

第95条〔錯誤〕

「意思表示は法律行為の要素に錯誤ありたるときは無効とす。但表意者に重大なる過失ありたるときは表意者自ら其無効を主張することを得ず」

契約の成立には各段階がありますが、インターネット・ショッピングにおいては、商品と価格を表示する行為が「申込の誘因」、これを注文する行為が「申込」、そしてその申込を受けたと返信する行為が「承諾」の段階にあると思われます。

信販売法も、カタログの配布自体を申込とはみないで、申込の誘因とみています。

そして、あなたもインターネットでお買い物をしたことがあれば経験があると思いますが、業者は通常、消費者に安心してもらうため、電子的注文があるとすぐに自動で「注文を受けました」という返信メールを送ることになっています。

もし今回、注文した人がこの自動返信を受け取っていたとすれば、一般的・形式的にはこれを「承諾」とみて、この時点で契約成立と解釈できるでしょう。

電子商取引等に関する準則」も、「申込者のモニター画面上に承諾通知が表示された時点」で契約が成立するとしています。

そしてもし契約が形式的に成立しているとすれば、業者はいろいろな義務を負い、「間違いだった」と主張することは実は許されません。

なぜならそれは民法95条但書の「重大な過失」になる疑いが非常に濃く、原則錯誤無効を主張できないからです。

そういう言い分をいちいち認めていては、商業社会が動いていかないということです。

場合によっては、単純に大安売りに喜んだ善意の購入者が、契約の成立を信じて大型液晶テレビの為に、すでに居間の改装工事に着手している可能性さえあります。

契約とは、まずそれぞれ自由な意思を発現させ、しかもそれが互いに合致点を見たとしたら、それがもともと自由な意思だっただけに、お互いに責任を取らせようと、契約という国家強制力の枠を一旦成立させて、どちらも不当に泣かないように工夫した制度であるとさえいえます(私見)。

もっとも以上は全て形式論であり、実際には諸事情含めて具体勘案が必要で、場合によっては錯誤無効が主張できることもあるでしょう。

ただし以前にやはり19万8千円のパソコンを1万9千8百円とインターネットで価格の誤表記をした丸紅ダイレクトが、責任を取って1万9千8百円の誤表示価格通りで販売した態度と、いったいどちらが社会に対して美しいのかは、消費者の判断に委ねられます。

「間違いは誰にでもある」とは口が裂けても言い出さない態度のことをかつて暖簾と呼び、人々はそれを通して商人への尊敬と信頼を寄せたはずなのです。
 

 
法理メール?