爆発物を教室に投げ込んだ高校生と特別法優位の原則

爆発物:教室に投げ込む、53人けが 高3男子逮捕 山口(毎日新聞)

山口県光市光井の県立光高校(弘中幸雄校長、生徒数610人)で、数学の授業をしていた3年生の教室内に、別のクラスの3年生の男子生徒(18)がガラス瓶に入った爆発物に火をつけて投げ込んだ。」

爆発物取締罰則の第1条をご覧下さい。

第1条〔爆発物使用〕

「治安を妨け又は人の身体財産を害せんとするの目的を以て爆発物を使用したる者及ひ人をして之を使用せしめたる者は死刑又は無期若くは七年以上の懲役又は禁錮に処す」

爆発物取締罰則は明治時代に、新しい時代を要求した勢力が権力側に対して行われた爆弾テロを意識して作られた施行された古い法律です。

爆発物取締罰則1条、爆発物使用罪は公共危険罪の一種ですが、ここで公共危険罪とは、不特定または多数人の生命、身体、財産を侵害する犯罪のことです。

騒乱罪、放火罪、出水罪、あへん煙に関する罪、飲料水に関する罪、そしてこの爆発物使用罪などは公共危険罪として非常に重い罰が用意されています。

その上たとえ罪を犯したのが少年、つまり二十歳未満の人だとしても少年法は二十歳未満のものを全て罪から逃すわけでもなく、送致された家庭裁判所は少年が16歳以上なら、禁錮以上の刑に当たる罪の事件についてだけは判断で検察官送致処分ができ、送致を受けた検察官は、原則的にこれを刑事裁判所に起訴しなければなりません(少年法45条)。

社会の安寧の前には、少年法1条の保護処分原則を軽々とこえてしまう罪の範疇もあるということです。

そして少年法51条は、そのときたとえば死刑相当と判断された罪を無期懲役に減刑するにすぎません。

今回の事件は傷害罪の現行犯ということで少年は逮捕されており、立法趣旨から爆発物使用罪を適用すべき場合ではないかもしれませんが、本来、爆発物使用罪という特別法は、傷害罪という一般法に優先して適用される性格をもっています。

これを特別法優位の原則といいます。

あまり普段聞かないような特別な罪は、その行為を特に想定してオーダーメイドで作られているため、吊しの背広よりも優先して着用を義務づけられるのです。

人を殺傷させることを目的に爆発物を破裂させる行為を、国家はそれほど神経質に警戒しています。

それを投げ込む行事やタイミングによっては、体制の根幹を揺るがす危険性やニュースとしての訴求力を爆発物は持っているからです。

記事によれば少年が作った爆弾の容器はガラスなのだとか。

しかし本来爆発物の威力は、火薬をどれほど強固な外皮で頑丈に覆ったかに比例して増大します。

少年が学校や社会の弱肉強食システムに反発心があったなら、それを安易に爆発させて他人に重傷を負わせるより、あらゆる合法手段に訴えて自分を強固に保護し、しかるべき地点までたどり着いた時に法に則した表現行為をとったほうが、社会を内部からの強力な爆発力で変えられる可能性もありました。

ガラス瓶で今爆発させてしまうことは、他人を流血させ、自分を社会の外側に吹き飛ばすくらいの威力しかないのです。

 

 

法理メール?  * 発行人によるメールマガジンです。