ゲームルームを支配する空気とディーラーの交替

過剰工事:3年間で数千万円分、認知症の老姉妹食い物に(毎日新聞)

「弁護士は「業者間で顧客名簿を売買し、特定の被害者に業者が集まる『次々販売』の典型例。骨までしゃぶり尽くす構図になっている」という。」

民法の7条をご覧ください。

第7条〔後見開始の審判〕

「精神上の障害に因り事理を弁識する能力を欠く常況に在る者に付ては家庭裁判所は本人,配偶者,4親等内の親族,未成年後見人,未成年後見監督人,保佐人,保佐監督人,補助人,補助監督人又は検察官の請求に因り後見開始の審判を為すことを得」

(意訳:切るカードの意味がわからないゲーム・プレーヤーは特別ルールで守ろうよ、自分たちもいつかそうなるのだから。)
 

あなたが八百屋さんでだいこんを買うと、レジで代金を支払う義務を負います。

そしてそれをしないとおまわりさんを呼ばれてしまいますが、そのことの根拠は、もともとあなたに「支払いをしても大根を手に入れたいという意思決定能力が十分にあったことに求められます。

自分でどこの大根が一番得か判断できたからこそ、あなたは売買契約というゲームのルールという拘束関係に自ら入ったのだとゲームに参加する皆が納得も得心もできるのです。

このようにカードゲーム・プレーヤーとして標準的な能力がある人がカードを切ることを望んだときだけ有効取引としてルールが拘束するという考えは、「意思」こそがお金や大根というカードを移動させているのだという発想を生みました。

「カードが有効に切られた」というためには外形上の行為が規定にあてはまるだけでは十分でなく、プレーヤー自身が一定判断能力の元にカードを切っていたことが法律行為には不可欠だというわけです。

法律行為とは財産という私たちのトランプのカードを国家拘束力のもとにやりとりすることですが、皆がその国家拘束力に静かに従っているのは、そもそもプレーヤーに、得る権利と従う義務のバランスを勘定できていたこと、そしてその状態を得ることがプレーヤーの真意だったことが必要なのです。

今回老姉妹は認知症に認定されましたが、もし契約当時から認知症の状態にあったことが完全に証明されれば契約は無効になります。

(または態様が公序良俗違反とされても無効です。)

その実質的根拠は国家拘束力に従うことを志向した、その「意思」がなければ姉妹の4000万円というカードと不要なリフォーム工事といういびつなカードのやりとりを法律行為であると認めることは、私たち全てが年を取ると身ぐるみを剥がされるゲーム室にいることを認めることになるからです。

そして成年後見制度は、これを矯正するため高齢者や判断能力の十分でない人びとの自己決定も尊重し,残存能力を活用してゲームに参加してもらうため特別にいったん行われたカードの交換も、なかったことにすることを許しています。

私たち自身がゲーム部屋を支配する空気を管理するシステムを意思自治と呼びますが、これはそもそも国民一人一人が国家という管理システムから信頼されて初めて成り立ちます。

不当なゲームを矯正できなければ、私たちは個々の自治能力に疑いを抱かれ、このゲーム部屋は国家による公的自治という、重苦しい選択肢が采配するしかなくなります。
 

 
法理メール?