ビジネスと詐欺のあやふやな境界

“ヤフオク詐欺”無罪確定 (デイリースポーツ)
「インターネットの競売サイト「ヤフー・オークション」に出品し、落札者約70人に商品を発送せず代金計約600万円をだまし取ったとして詐欺罪に問われた無職女性(37)=神戸市=を無罪(求刑懲役五年)とした神戸地裁判決に対し、神戸地検は19日までに控訴を断念、無罪が確定した。「発送するつもりだった」と主張した女性の弁護側は「破産し、神戸地裁から債務免責を許可されており、今後も被害弁償の予定はない」と話している。」

破産法265条1項をごらんください。

第265条(詐欺破産罪)

「1 破産手続開始の前後を問わず、債権者を害する目的で、次の各号のいずれかに該当する行為をした者は、債務者について破産手続開始の決定が確定したときは、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。情を知って、第四号に掲げる行為の相手方となった者も、破産手続開始の決定が確定したときは、同様とする。
一  債務者の財産を隠匿し、又は損壊する行為
二  債務者の財産の譲渡又は債務の負担を仮装する行為
三  債務者の財産の現状を改変して、その価格を減損する行為
四  債務者の財産を債権者の不利益に処分し、又は債権者に不利益な債務を債務者が負担する行為」 

[以下、刑事法の理論と実践―佐々木史朗先生喜寿祝賀中の論文、”詐欺破産罪の図利加害目的に関する一考察 伊藤亮吉”を参照させていただきます]

破産法は第一に債務者が永遠に責め立てられることを防止するため、第二に債務者の財産を債権者に公平に分けるための法律ですが、破産に際しては債務者が財産を隠す等行為に走る場合が多くあります。

そのため詐欺破産罪は、債務者が「債権者を害する目的で」すなわち図利加害目的で破産財団に属する財産の隠匿、等をして、破産宣告が確定した場合に債務者を処罰することにしています。

破産を申し立てた後の債務者が無茶な取引をすることはもちろん許されませんが、破産申立前の債務者は、一応一般人と同様なのでその財産の処分を全て禁止することはできません。

つまりその段階では、債務者があえて財産上危険な取引に出てもそれを禁ずることは権利義務が帰属する一般人として見れば一応できません。

しかし債務者自身は将来破産宣告がなされることが予見可能であり、総債権者のために信義則にしたがって行動する義務があります。

よって詐欺破産罪規定の行為をすることはこの義務に違反することになります。

破産申立前の債務者が行う冒険的取引は、その債権者に対する危険度を考えれば、およそ経済活動の範疇に入る行為とはいえないのです。

結局、破産宣告前の取引を適法と呼ぶかどうかは、図利加害目的の有無によって決定されることになります。

学説上は争いがあるものの、判例理論上は、目的犯にいう”目的”を「ほぼ全体を通じて未必的な認容で足りる」としています(最高裁 昭和29年11月5日)。

しかし実務では、詐欺破産罪をはじめ、破産犯罪が適用される事案はかぞえるほどしかないといいます。

人の心は不定形で、その中身を法廷の場では証明しがたいからです。

ポリグラフ検査さえ、厳密に言えばウソ発見器などという魔法の器械ではありません)

もちろん本件被告女性の真意も、誰も証明することができない以上確かに無実なのかもしれません。

ただもし故意以上の”目的”が要件である罪をすり抜ける術があるとすれば、それは”目的などなかったのだ”と、自分自身さえ説得し切ることにあるといえます。

 

 

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