260条1項後段に焼刃を入れよう

ソニー社外取締役にトヨタの張副会長(NIKKEI IT PLUS)
ソニーのような国際企業の役員にトヨタの現職首脳が就くのは異例。張氏の取締役起用は、社外役員の登用に積極的な出井伸之前会長らが発案。エレクトロニクス部門の責任者で、顧客視点に立った製品づくりや「現場主義」の徹底を求める中鉢良治社長も賛同した。」

商法の第260条1項をご覧下さい。

第260条〔取締役会の権限〕

「取締役会は会社の業務執行を決し取締役の職務の執行を監督す(以下略)」

社外取締役とは、部外者の目によって経営をチェックする役目を担う人です。

その要件は、商法の188条第2項7号の2によれば①会社の業務を執行しない取締役で、②過去においてその会牡または子会社の業務を 執行する取締役や執行役、支配人、使用人になったことがなく、③現在においても子会社の業務を執行す る取締役または執行役、会社の支配人、使用人でない人であることとなっています。

妙に社外取締役の要件が厳しいのは、就任する前に関係者だった人が社外取締役として戻ってきても、現実的には代表取締役の影響を受けずに経営を監督できそうにはないからです。

本来商法は、その260条1項後段により取締役会には代表取締役を選任や解任をし、代表取締役の業務執行を監督する権限を与えています。

しかし現実の社会で、あなたやわたしは代表取締役の意思決定に対して条文通りクールに忠告する取締役などというものはあまり聞いたことがありません。

オーナー社長が多数を占める日本の株式会社では、家族のためになるべく代取の意のままに動こうというのが、取締役という椅子を与えられた人の常です。

つまり突発的な例を除き、260条1項後段は書かれた瞬間に株主を納得させるためだけの一条になってしまった可能性があります。

国政でいえば首相を選任・監督する国会のように、取締役会がその本来の業務監督を果たせるようになるためには生活の基盤を代表取締役の機嫌如何に左右されない外部に軸足を置く人が必要です。

社外取締役という冷却水は、素延べの終わったままになっていた取締役会という刀身を急速冷却することで焼き入れを行い、260条1項後段という切れ味に実効性を与える仕事を期待されています(私見)。

社内取締役よりも責任は減じられているとはいえ、もしソニー代表取締役が会社に損害を与えた場合は、トヨタの張さんも例外なく社外取締役として株主代表訴訟の対象にもなります。

改正商法がお互いの立場に真剣味を用意して、株式会社における機関の分化がその実効性を得ようとしています。