横領の箱を開けて一歩も動けなくなろう

酒販組合、元事務局長が横領の疑い 政界工作を担当(朝日新聞)
「酒の小売店主らでつくる「全国小売酒販組合中央会」(東京都目黒区)の年金資金約1億4000万円が使途不明になっていた問題で、この資金の送金先だった仮名口座は同会の元事務局長(49)が開設を主導していたことが、中央会の調べなどで分かった。元事務局長はこの口座を使って3000万円近くを横領した可能性があり、警視庁は近く、業務上横領容疑などで本格捜査に乗り出す方針だ。」

刑法の253条をご覧下さい。

第253条〔業務上横領〕

「業務上自己の占有する他人の物を横領した者は,10年以下の懲役に処する。」  

横領罪とは、簡単に表現するとネコババ罪ということになります。

基本的な横領罪は251条で、実は5年以下の懲役ということになっています。

詐欺は10年以下、窃盗も10年以下であるにもかかわらず、同じく財産を奪われる横領の刑が5年であるのは、そもそもそういった人に預けてしまった被害者の自己責任があるからだといわれています。

ただし業務上横領の場合は例外的に、横領であるにもかかわらず10年以下の懲役ということになっています。

それは預けた理由が、とりもなおさず「業務」で行う人だったからです。

業務で他人のものを占有する人がそういうことをやらかした場合には多くの人の信頼に背くのでその被害が大きく、また業務で行っている以上、それは出来心とはいえぬゆえ頻発のおそれもあり、さらに社会への裏切り度が非常に高いため、より違法性が強いということで本来 5年で済むところを加重処分されているのです。

業務上横領罪における「業務」というのは、社会上の地位により、反復・継続して行う事務のことをいいますので、それが職業である必要はありません。

その定義が何を意味するのかといえば、社会の中で一定の地位が継続してなんらかの形をつくるとき、それが職業であろうがなかろうが、そこに悪意という穴があってはならないという掟を意味します。

信頼される椅子にすわった人が信頼に足る仕事をしてくれなければ、いったいわたしやあなたは何を信頼して生きていけばよいのかわからない総すくみの世の中になってしまうからです。

社会はいろいろな職業で成り立っており、その職業は善意もあれば悪意もある生身の人間が毎日定型行動を取ることで成り立っています。

業務上横領罪の加重処分は、そのことの本質的脆弱性をおびえながら描き出しています(私見)。
 


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