法律が空に引いた白い線

仏政府が航空会社のブラックリストを公表、上空飛行が禁止に(WorldTimes)
「飛行禁止の航空会社は以下の通り。高麗航空北朝鮮)、セントトーマス航空(米国)、国際航空(リベリア)、モザンビーク航空(モザンビーク)、プーケット航空(タイ)。」

ローマ法の土地所有権に関する原則をご覧下さい。

「Cuius est solum, eius debet esse usque ad coelum.」

(土地の所有者にはその上空もまた帰属することを要する)

*出典:ローマ法 第二巻 船田享二 岩波書店

セントトーマス航空の飛行機が柵もない空のどこを飛ぼうとも自由な気もしますが、その思想的根拠はどこにあるといえるでしょうか。

国家が領有する空域は対国家間において領空と呼ばれますが、この言葉によって国家の上の空には勝手に白線が引かれていることになっています。

なぜそのような空の区分けが許されるかについて、通説は主権説と呼ばれる学説を採用しています。

主権説は、土地所有権に関する上記ローマ法の原則である、「地の主は空の主にしてまた地下の主なり」にもとづくといわれます。

ローマ法が編纂されたのは6世紀ですので、約1500年前の人々はすでに空も国家の物と考えていたことになります。

その後現代に締結された「領海及び接続水域に関する条約」がその2条で「沿岸国の主権は、領海の上空並びに領海の海底及びその下に及ぶ」と明言し、空は国家という家庭の庭先なので、家主に勝手に通り抜けは許さないという思想が一般化しています。

セントトーマス航空等は、その機体や運行態度に十分な安全性を見られないとして、フランス政府から上空飛行の禁止を求められています。

空に国境はたしかにありませんが、そこに描かれた白線の歴史が1500年以上あるからには、その刻印は剥がし難いものです。

そのためセントトーマス航空のフランス上空飛行禁止という措置を法の歴史から再解釈すれば、それが国家主権の投影である以上、セントトーマス航空等が再びその空の白線を超えるためには、思った以上に矜持を正す必要があるといえそうです。

法理メール?