除斥期間:容赦なき区切り

9人の「除斥期間」巡り国側上告 北海道石炭じん肺訴訟 (朝日新聞)

「高裁判決は除斥期間について、じん肺の症状に関する最後の行政上の決定、あるいは死亡の時から20年と判断した。これに対し、国側は「症状に関する行政の最初の決定時から起算する」との見解を示し、9人については除斥期間がすでに過ぎていると主張していた。」

民法の724条をご覧下さい。

第724条〔損害賠償請求権の消滅時効

不法行為に因る損害賠償の請求権は被害者又は其法定代理人が損害及び加害者を知りたる時より3年間之を行はざるときは時効に因りて消滅す不法行為の時より20年を経過したるとき亦同じ」

国家賠償請求権については、国家賠償法四条が、民法七二四条を引っ張ってきています。

そこで民法の724条後段を見てみると、不法行為をめぐる法律関係を一定期間の経過によって画一的に確定させるため、不法行為によって発生した損害賠償請求権の除斥期間を定めたものと分析でき、事実判例もそう判断しています(最高裁平成元年12月21日)。

除斥期間における「斥」の字は、一文字で家来に向かって「下がれ」というような意味を持ちます。

除斥期間は時効によく似た制度です。

権利行使期間であって、一定の期間内に権利の行使をしないと権利が消滅するものと説明されます。

この損害賠償の場合20年たつとじん肺被害者は国に文句がいえなくなるというわけです。

除斥期間という制度の趣旨は権利関係をさっさとハッキリさせることにあります。

その立法趣旨の点からすると、行政の最初の決定時から起算したほうが権利関係が早く決着がつきますので、国の主張のほうが認められる方向を向いています。

ただ、ここでいう「決着」とは、場合によっては国がじん肺対策を怠った不作為のせいでじん肺被害を負った人々を合法的に国が無視することを意味しますので、結論として座りは決してよくありません。

その意味で、この争いのある除斥期間という論点に対して、最高裁がどこまで実質的な利益衡量を持ち込めるかが注目されます。
 

 
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