景品表示法:グルーポンと50年前の缶詰

ネット注文の「スカスカ」おせち、横浜市が調査開始

「インターネットの共同購入サイト運営会社「グルーポン・ジャパン」(東京)がサイトで販売したお節料理が「見本と違う」として苦情が相次いだ問題で、商品を提供した横浜市の飲食店経営会社に対し、市が事実関係の調査を始めたことが5日、分かった。消費者庁も、商品を実際より良く見せかける表示をしていたなどの景品表示法違反が確認されれば、厳正に対処する方針。」(iza)

景表法4条1項2号をご覧ください。

不当景品類及び不当表示防止法

第四条(不当な表示の禁止)

事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない。

二    商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの」 

1960年に「にせ牛かん事件」と呼ばれる経済犯罪がありました。

事件のあらましはこうです。

(以下参照:Q&A 景品表示法―景品・表示規制の理論と実務

まず鯨肉のかん詰の中身を牛肉のようにみせかけ、4万個近くを無許可で製造販売していた悪質なモグリ業者が、東京都衛生局と神奈川衛生部に摘発されます。

摘発の端緒は都衛生局に"三幌のロースト大和煮"かん詰のなかにハエが入っていたとの届け出があったことから同局で調べたところ、ハエが入っていたかん詰は沼津市のK食品会社がつくっている"三幌のロースト大和煮"の商標 をまねたヤミ製品でした。(日本経済新聞1960・9・6朝刊)。

しかしここから問題は、さらに大きく展開します。

その中身が鯨肉のかん詰を牛かんとみせかけ,無許可で製造販売していた悪質なモグリ業者を摘発したところ、そのヤミかん詰がまねをした商標を付けた本物もまた中身が鯨肉とわかり、ヤミ、本物ともに食品衛生法の盲点をついていたことが明るみに出たのです。

さらに一般市販されている牛肉大和煮かん詰やコンビーフ類のほとんどが牛かんと見せかけながら実は中身の大部分または一部分が"馬肉"ということが中央区の業者の届け出からわかりました。

結局、当時市販されていた牛の絵のラベルの貼られたかん詰の多くが、鯨肉や馬肉であったことがはからずも明るみにでたのです。

しかし当時からこの種の欺瞞的な表示方法は氷山の一角であり、これに類した商法は多くあるのではないかと考えられていました。

それを反映して新しく法律 をつくり、食品の欺瞞表示を全般的に規制すべ きであるという声が出てきました。

これを受けて商品や役務の取引に関連する不当な景品類や表示で、顧客が誘引されることを防止するため制定されたのが、景品表示法という法律です。

 

ビジネスとはつまり、顧客を確保することにほかなりません。

それが新製品や新技術、良質で低廉な商品やサービスを開発することで顧客を確保しているうちは健全です。

しかし派手なコマーシャルや懸賞や値下げ価格の派手な演出のほうが、よほど早く顧客獲得の成果を上げることもある面でまた事実です。

そして低廉な商品やサービスを提供するということ自体は、自由主義経済上、全うな顧客誘引行為であるともいえます。

今回も少なくないビジネスマンが騒動の業者を擁護する側に回るのも、ビジネスにおいてどこからどこまでが正当な誘因なのかという点で、商人それぞれの感覚があるからです。

この点景品表示法では、誇大広告、虚偽表示といった不当表示や、過大な景品付販売を不当な誘因と判断しています。

そして景表法4条1項2号にいう”不当表示”とは、たとえば「普段の価格の半額で手に入るおせち」という広告品に、実は”普段の価格”そのものが実績として存在しなかったような場合です。

それは他の業者から購入するよりすごく得なのだと、消費者が誤認してしまう表示にほかならないからです。

フラッシュマーケティングというビジネスモデルは、クーポン仲介業者とサービス提供業者が一番最初に消費者から現金を受け取り、商品という対価は消費者が一番最後に受け取るという時間差の上に成り立っています。

もしそこに”消費者は価格の二重表示を紛れ込ませても最終的に気がつかない”という旨味を見るのなら、それは「消費者は鯨肉に牛肉のラベルを付ければ喜んで高値を払う」と考えた50年前の缶詰業界と何ら変わるところがありません。

「まさかこんな大事になるとは思わなかった」、それが当時の缶詰業者が吐露した矜恃の限界でもあり、もしかすると現代における一部のビジネスマンのそれでもある可能性が見えるのです。