下車できない、失敗という名の電車

立てこもり男の身柄を確保・愛知県長久手町(日本経済新聞)
「察官2人を含む男女4人が死傷した愛知県長久手町の発砲立てこもり事件で、愛知県警は18日午後8時48分、立てこもっていた元暴力団組員、大林久人容疑者(50)の身柄を確保した。県警は殺人、殺人未遂や銃刀法違反容疑で逮捕する方針。」

銃刀法の3条をご覧下さい。

第三条(所持の禁止)

「何人も、次の各号のいずれかに該当する場合を除いては、銃砲又は刀剣類を所持してはならない。

一  法令に基づき職務のため所持する場合(以下略)」 

以下に科学警察研究所犯罪行動科学部による著書、「捜査心理ファイル―捜査官のための実戦的心理学講座 犯罪捜査と心理学のかけ橋」から、立てこもり犯の犯人像を引用してみましょう。

---------------------------------------------------------
・人質立てこもり事件というものは、単独犯による犯行が圧倒的に多く、全体の92.5%を占める。

・犯人の職業の60%が無職、職がある場合は職人、自動車の運転者、工員など単純労務が多く、頻回転職者が大半である。

・その性格は多くが未熟で、成功や達成経験がない。彼らは失敗、要望より常に少ない現実に慣れてきたため、現金や武器、逃走車両を要求してはみても、タバコや食事の差し入れだけで納得する。

・立てこもり犯の中にはメディアへの報道要求をするものが多い。それはこれまでの人生で世間の注目を浴びることもなかったためだと考えられる。

・立てこもり時間は6時間未満が80%、91.7%が12時間未満で解決している。しかし銃器を用いた立てこもりの場合は長期化する傾向にある。

・犯行の動機は夫婦や恋愛のもつれが30%、強盗を失敗したあとが27%、幻覚によるものが20%であり、概して無計画である。

・事件のタイプとして男女間のトラブルで立てこもった場合、概して計画性がないため、警官が集合したことで結果的に立てこもりに追いつめられたケースもある。元妻を拘束しているような場合、要求は警察の立ち退きしかなく、このため交渉が成り立ちにくい。このタイプの犯人は自己破壊的であるため、合理的な思考ができるまで落ち着かせることが肝要である。それには「言葉の置き換え」「言葉の繰り返し」「相づちを打ちながら聞く」「質問をする」などの積極的聴取技術が有効である。
---------------------------------------------------------

それは華々しい実績を人生に残せず、気が付いたら出口のない悪循環に入ってしまっていた人達が、追いつめられれば立てこもるのだという冷徹な分析です。

勇敢な警官を撃ち動けなくしてしまったとき、またはかけがいのない特殊部隊の隊員をあろうことか殺してしまったとき、立てこもった犯人は、もう後戻りが許されない人生に足を踏み入れた時の、嫌な皮膚感覚を味わったかもしれません。

失敗の味を知らない人がする発言や行動は、いつでも無邪気で幸福です。

しかし一方では、いったいなにがどこで間違ったのか、それに思い至ることさえかなわない一生というものも、この世の中にはたくさん存在しています。

そしてそれは銃刀法を違反して銃器を隠し持つことや、まして若いの命を奪うことなどでは真の意味で購えないものであることは、犯人がそもそも一番よくわかっていたはずです。

 

 

法理メール?  * 発行人によるメールマガジンです。