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クラーク博士の精神 教育基本法に結実 北大の武士道展で紹介(北海道新聞)
「クラークは、学生を「若き紳士諸君」と呼び個を尊重。授業に加え勤労を課し、勤労には報酬を与え責任を教えた。それが、基本法一条「人格の完成を目指し、(略)個人の価値をたつとび、勤労と責任を重んじ、自主的精神に充ちた(略)」に結びついた。また、新渡戸や同期の内村鑑三は、軍を批判したり、教育勅語奉読式で最敬礼を行わなかったことで“国賊”扱いされたことがある。教育や学問が政治に介入された苦い経験は、基本法一〇条「教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきものである」に反映された。」

戦前の教育に関する基本文書、教育勅語をご覧下さい。

「朕惟ふに我か皇祖皇宗國を肇むること宏遠に德を樹つること深厚なり

我か臣民克く忠に克く孝に億兆心を一にして世世厥の美を濟せるは此れ我か國體の精華にして教育の淵源亦實に此に存す

爾臣民父母に孝に兄弟に友に夫婦相和し朋友相信し恭儉己れを持し博愛衆に及ほし學を修め業を習ひ以て智能を啓發し德器を成就し進て公益を廣め世務を開き常に國憲を重し國法に遵ひ一旦緩急あれは義勇公に奉し以て天壤無窮の皇運を扶翼すへし

是の如きは獨り朕か忠良の臣民たるのみならす又以て爾祖先の遺風を顯彰するに足らん

斯の道は實に我か皇祖皇宗の遺訓にして子孫臣民の倶に遵守すへき所之を古今に通して謬らす之を中外に施して悖らす

朕爾臣民と倶に拳々服膺して咸其德を一にせんことを庶幾ふ」 

教育勅語の全体像を知るため、以下「今、なぜ変える教育基本法Q&A」(堀尾輝久 石山久男 浪本勝年 著)という本からその歴史を引用してみます。

かつて山県有朋は、軍人の精神を説いた「軍人勅諭」をつくりました。

彼が総理になったとき、教育にも軍人勅諭のようなものがほしいと考え、1890年文部大臣につくらせたのが教育勅語です。

教育勅語発布の翌日、文部大臣は「およそ教師たる者は、勅語をおしいただき、その意味をよく教えて、生徒にたいへんありがたいものだということを感じさせなければならない」という訓令を発しました。

この訓令の精神を実行に移すべく、1891年「小学校祝日・大祭日儀式規程」を定めて学校儀式のあり方を決めました。

これにより小学生たちは、決まった祝日には学校に登校して式をあげることになったのです。

式ではフロックコートと白手袋に威儀をただした校長のもと、荘重な雰囲気の式場で、天皇・皇后の肖像への最敬礼、校長訓話で「畏れ多くも」「畏くも」と発したら小学生たちはすかさず「気を付け」の姿勢をとり、次に「天皇陛下」という言葉が常に出ました。

大正期になると、小学校校舎の別棟には、御真影教育勅語謄本を格納する奉安殿が建てられることが多くなり、火災などで御真影教育勅語謄本を取り出そうとして焼死する校長や教員が数多く出ました。

1938年に発行された教科書には「我が大日本帝国は、万世一系の天皇のお治めになる国であります。」「これらの心得を守るのは、教育に関する勅語の御趣意にかなふわけであります。我等は此の御趣意を深く心にとめ、真心をもってこれらの心得を実行し、あっぱれよい日本人とならなければなりません。」とあります。

やがて日本は戦争で負けました。

敗戦後しばらくするとひとびとのなかにも「ひとりひとりが主役であってもかまわない」という民主的教育への渇望が生まれ、アメリカ教育使節団の調査の下、1947年に枢密院衆議院貴族院の本会議の議を経て教育基本法は成立したのです。

教育基本法に関する改正論議がいつも紛糾するのはなにもここ最近のことではありません。

1952年の日米講和条約締結後、また1960年安保条約の改定時、また1978年日米防衛協力のための指針決定後、教育基本法はそのたびにふぬけのそしりを受け続けてきています。

それは大日本帝国憲法教育勅語がワンセットだったように、現行憲法教育基本法も理念法と具体法の関係にあるからにほかなりません。

教育基本法憲法のように前文を備えているのもそのためです。

子供たちに世界を伝える”教育”というものの形について、わたしたちは夜が明けるまで論じても相手を言い負かすことはできません。

なにしろわたしたちは各々が獲得した言葉で、各々の見る世界をそれぞれ再構成して同一のもののように論じています。

そうであるならば、子供達がその未来をより自由度高く語るために、教育はまずできるだけたくさんの言葉を彼らに渡せる構造でなければなりません。(私見)

それでも人という生き物は自らの幸福を基準に言葉を選んでいくとは限らず、むしろ自らを痛めつけるための言葉を選びつづけることも多いのです。

思想よりも奥にある自分の内側を柔らかく触ってみること、そこにたどりつくにはただならぬ勇気が必要になります。

 

 

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