4月81日に出された手紙が持ち去る財産

消印は「4月81日」=京都の郵便局で誤植1500通(Yahoo)
日本郵政公社近畿支社は18日、京都市山科区の山科郵便局(中村孝志局長)で、封書など普通郵便物の消印日付の誤植が起きたと発表した。本来は「4・18」と印字すべきだったが、「18」の文字板が上下逆さまになり、「4・81」に見えるように印字された。誤植のあった約1500通は既に配送に出してしまったという。」

民法の527条をご覧下さい。

第527条〔申込取消しの延着と通知〕

「申込の取消の通知が承諾の通知を発したる後に到達したるも通常の場合に於ては其前に到達すべかりし時に発送したるものなることを知り得べきときは承諾者は遅滞なく申込者に対して其延著の通知を発することを要す

承諾者が前項の通知を怠りたるときは契約は成立せざりしものと看做す」

離れた場所にいる人どうしが郵便物などで交渉して契約を成立させる場合いろいろとややこしい状況になりがちです。

このような遠いところにいる人同士の契約のことを民法は隔地者間の契約と呼び、いくつかの特別な規定を用意しています。

たとえば京都のデベロッパーが風光明媚なマンションを格安で売りたい旨を、東京に住むあなたに書面で申し込んできたとします。

もしマンションの価格が突然高騰したとしたら、申込が到達する前ならデベロッパーは電話かなにかでそれを撤回することができます。

この97条1項が定める隔地者間契約の原則のことを、到達主義と呼んでいます。

ただたとえば「承諾期間は10日です」と定めてあれば、521条1項でその期間だけは取り消せないことになっています。

一方承諾期間を決めていない申込なら、524条が「承諾の通知を受くるに相当なる期間」だけは撤回ができないことにしています。

仮に承諾の期間をとくに決めずに京都のデベロッパーから申込の書面が4月の10日に発送され、それが4月12日に東京のあなたのもとに届いたとします。

デベロッパーが返事を受け取るまでの「相当な期間」を仮に 10日間とすると、デベロッパーがその申込を撤回できないのは申込発信日の10日から数えて4月19日までです。

あなたのほうは21日になってから承諾の返事を東京から出しました。

しかしデベロッパーのほうは実はマンション相場の突然の暴騰に驚き、申込の撤回の書面を4月18日にあわてて送っており、本来それは20日には東京に到着していたはずでしたが郵送事故で 22日になってやっと届たとします。

物理的に申込の撤回が届くことが承諾の日に遅れてしまったとはいえ、デベロッパーとしては「18日に撤回の書面を発送しているから、まさか安売りで損をすることはあるまい」と安心していたはずで、郵便事故だからしょうがないとだけ言われても納得できないでしょう。

527条はこのような事案を調整するために、承諾の前に撤回の通知が普通届いていただろうと推察できた場合には、撤回の通知が遅れたことを連絡しなければ契約が成立しないと決めています。

そして連絡の要否の重要な判断基準となるのが、京都のデベロッパーから届いた撤回通知の発信日の消印、「4月18日」です。

京都の郵便局が、本来4月18日消印の郵便物に4月81日の消印を押して1500通を配送してしまったと、とても穏やかに報道されていますが、郵便物のなかにはその消印が互いの重要な財産の行方を決めるものもあります。

ありえない日付の消印ひとつをもって裁判所が判断を決めることはありませんが、消印のいい加減な取り扱いは隔地者間の契約では「面白い消印の郵便物が届いた」では済まない事態も起こしえることに注意が必要です。