国政調査権というマスターキーとファーストクラスの変容

振り込み疑惑 国政調査権発動が焦点 民主要求、自民「証拠が先」(北海道新聞)
ライブドア側から武部勤自民党幹事長の二男への金銭振り込み疑惑をめぐる与野党の攻防は、国政調査権の発動が焦点になってきた。民主党国政調査権の発動で銀行口座の出入金記録などが確認できれば「信ぴょう性への疑念は氷解する」と主張するが、自民党は「発動の前に民主党が証拠を示すべきだ」と強調。二十二日の党首討論を前に、全面対決の様相が強まっている。 民主党前原誠司代表は十九日、福島市内で記者会見し「信ぴょう性はかなり高い」と自信を示した上で、「国政調査権発動が最大のポイント。与党が拒否するのは事実を明らかにしたくない口実としか思えない」と述べ、自民党の対応を批判した。国政調査権は、憲法六二条が定めている衆参両院の権利で、行政機関や民間企業などへの証人出頭や証言、記録提出を要求でき、事実上の強制力を持つ。  」

憲法の62条をご覧下さい。

第62条〔議院の国政調査権

「両議院は,各々国政に関する調査を行い,これに関して,証人の出頭及び証言並びに記録の提出を要求することができる。」 

国政調査権とは、衆議院参議院が国の政治に関する調査を行うことができる武器のことです。

たとえば大臣の政治責任を追及したいとき、国政調査権を発動することができます。

内閣は連帯して国会に対して責任を負うため(66条3項)、国会はその逆流として各国務大臣政治責任を追及できるからです。

もともと私たちの暮らす国の憲法は、国会を国権の「最高機関」であると取り決めています(憲法41条)。

もしそれが看板通りなら、その構成要素である各議院が装備した国政調査権という機能を憲法上にあえて明記する必要もなさそうな気がします。

しかし62条はあえて「証人の出頭及び証言並びに記録の提出を要求することができる」と明記することで、その強制権限の裏づけを憲法のレベルからしているのだと解釈されています。

問題は、なぜ操縦室にこもったパイロット達(内閣)に向かって、ファーストクラスに座る代表達(両議院)が、「俺たちの持つマスターキー(国政調査権)は、その操縦室を開けることができるぞ」とその強制権限性をわざわざ”宣言”しなければならないかです。

現実の解釈として国会が”国権の最高機関”であると称されることの意義は、学説上、単に、国民主権国家・日本において主権者・国民に直結した国家機関としての国会が「価値的に」最も高い位置にある、ということを述べたまでのものでしかないのだと理解されています(政治的美称説 通説)。

さらに現代においては、現実に操縦桿を握っている内閣や、飛行機というシステムを熟知しているフライトアテンダント、整備士(霞ヶ関)のほうが国政の実権を強く握り、内閣に責任を負わせているはずの国会など、ともすれば操縦室の次に空きが出来る席を虎視眈々と狙って、むしろ操縦室の面々にあれこれ協力する場面のほうが多くなっています。

そのような体制内の飛行機にあって、一般乗客(国民)の意図に背かない飛行を担保するためには、たとえほんの少しの代表者でも疑問に思うことがあれば、強権的に操縦室の扉を開けてしまうマスターキーが議院に備え付けられていることが必要です。

すなわちファーストクラスに備え付けられたマスターキーの存在は、”強権だぞ”と憲法に宣言しておいてもらうことが、操縦室にも、ファーストクラスで骨抜きになりそうな代表達にも釘を刺すのです。

そしてそのことが現代における国政調査権憲法62条の意義なのだといえそうです(私見)。

マリーアントワネットの首がギロチンの露と消えてからこちら、議会の発達とは、国家運営の安全を確保しつつ、わたしたち一人一人の希望を無理なく効率的に国政に繁栄させるためのアルゴリズムのバージョンアップを意味してきました(私見)。

そしてこれからもきっと、いろいろな失敗を繰り返しながら、私たちは過去よりも少しずついい手順を手に入れていくはずです。

しかし行政という現場班が飛行場でやたらと幅をきかせる現代の段階においては、「国政調査権」というマスターキーが議院内閣制を趣旨通りに運営させるために、まだまだ有効に働いてくれるはずです。