タミフルによる異常行動死とインフォームドコンセント

インフルエンザ治療薬 タミフルで異常行動死(東京新聞)
岐阜県の男子高校生=当時(17)=はインフルエンザと診断され、タミフル一カプセルを服用。一時間半後、家族の留守中にはだしで家を出て、フェンスや塀を乗り越えるなど異常行動を取り、自宅近くの国道に飛び出し大型トラックにはねられて死亡。今年二月には、愛知県の男子中学生=当時(14)=がインフルエンザにより処方された一カプセルをのみ、約二時間後、自宅マンションの九階から転落し死亡した。」

民法の645条をご覧下さい。

第645条〔受任者の報告義務〕

「受任者は委任者の請求あるときは何時にても委任事務処理の状況を報告し又委任終了の後は遅滞なく其顛末を報告することを要す」 

お医者さんが患者に投薬内容や手術方法などを説明する義務は、医療という準委任契約上の付随義務であると考えられます。

そもそもお医者さんという見ず知らずの人にお腹をメスでパックリ切断されてもまったく刑法が出動しないのも、私たち患者の側に十分な選択肢としての情報が供給され、自分自身がそのお医者さんにお腹を切断してもらうことに同意するからこそです。

これをインフォームドコンセントと呼び、インフォームドコンセントという概念を支えているのが、患者の自己決定権と呼ばれるほぼ確立された権利です。

十分な情報の事前提供をしないで医師が医療行為を行った場合、わたしたちの自己決定権が侵害されたと見なせるため、手術自体の成功、不成功にかかわらず医師には債務不履行や、不法行為があったと見ることが可能になります。

事実、かつて手術が成功したにもかかわらず、「宗教上、あれほど輸血をしないでくれといったのに手術で輸血をされた」と患者が訴え出た有名な判例があります(平成10年2月9日)。

そこで東京高裁は、まず手術前の無輸血手術の合意について「人が信念に基づいて生命を賭しても守るべき価値を認め、その信念に従って行動することは、それが他者の権利や公共の利益ないし秩序を侵害しない限り、違法となるものではなく、他の者がこの行動を是認してこれに関与することも、同様の限定条件の下で、違法となるものではない」としました。

医師の側は「輸血に関する治療方針について説明すればX1が手術を拒否すると考えてあえて説明しなかった」と主張していました。

しかし高裁は「自己決定権を否定し、いかなる場合であっても医師が救命のため手術を必要と判断すれば患者が拒否しても手術をしてよいとすることに成り兼ねないものであり、是認できない」とまでして、説明義務違反に基づく不法行為を理由に精神的損害についての賠償を認めています(以上参考:憲法判例百選(1) 有斐閣)。

どのような薬を飲むのか、その薬は過去にどのような事故例があるのか、薬を飲まずに済む選択肢はあるのかなど、事前に正確に知らされる権利は、私やあなたの今後の一生に起きうる振れ幅を知らされた上で自己責任で判断するための極基礎的データです。

患者である私やあなたがどうした形の人生を送りたいかという決定は、医療情報を独占して私たちの前に座っているお医者さんの業務上よかれとおもう気持ちとは、別の高次にあるのだと高裁は判断しています。

そしてそれゆえに、医師の説明義務の範囲をより広く要求しているのです。

 

 

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