ダンスに興じた執行官という決壊ポイント

競売調査中に整体、ダンス 大阪地裁執行官を戒告(goo)
「大阪地裁は7日、不動産競売事件の調査で訪れたビルの部屋で、賃借人側から整体の施術を受けたり一緒に社交ダンスを踊ったりして、正当な理由なく勤務を約15分間外れたとして、50代の男性執行官を戒告の懲戒処分にした。」

国家公務員法の82条をご覧下さい。

第82条(懲戒の場合)

「職員が、次の各号のいずれかに該当する場合においては、これに対し懲戒処分として、免職、停職、減給又は戒告の処分をすることができる。

1.この法律若しくは国家公務員倫理法又はこれらの法律に基づく命令に違反した場合
2.職務上の義務に違反し、又は職務を怠つた場合
3.国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合」 

執行官とは、たとえば今回の大阪地裁のような裁判所に配属されて、不動産の明渡しや引渡の執行などを担当する国家公務員です。

執行官になるには”一般職の職員の給与に関する法律第六条第一項第一号イに規定する行政職俸給表(一)に定める職務の級が七級以上の職にあった人、又はこれに準ずる職歴を有する人”であることが必要条件です。

そのなかから筆記と面接を経て任命されます(執行官規則第1条)。

その後、最高裁判所の定める研修を受ければ執行官のできあがりとなります。

地裁において、執行官の不良を見張る役目は実は裁判官にあります(執行官規則4条)。

さらに執行官は執行官法の3条で、競売関係者と自分が密接な利害関係者であるときはその職務をはずれなければなりません。

これを除斥といいます。

それらは全て、競売という制度を健全に運営していくための必要最低条件だといえます。

競売(法律用語としての読み方は”けいばい”、一般用語としての読み方は”きょうばい”)はいうまでもなく、抵当権などをつけられていた家屋等を国家が強制的に売却し、お金を貸した人等を満足させる手続のことです。

原因があるとはいえ、国家権力が私有財産を強引に処分しますので、当然、それを直接作業する執行官には厳粛かつ公正な態度が要求され、それゆえ着任に厳しい要件が要求されているわけです。

(ただし裁判所書記官だった人は、なぜか筆記の免除が可能になります。)

今回、本来競売で追い出される側だった人から整体の施術を受けたり、社交ダンスをしてもらったりした執行官には”戒告”という処分が下されましたが、戒告とはなんのことはない、「コラッ!と怒っておきました」という処分です。

それは国家公務員に課される懲戒処分のうちで、もっとも軽いものです。

実は昨年も名古屋地裁職員が、勤務中に競売物件購入の業者とゴルフをして懲戒を受けています(その後依願退職)。

また競売物件の不動産評価額を算定する鑑定士と裁判所の力関係なども言われてひさしい部分です。

それが営業先の担当部長であろうとも、競売を担当する執行官であろうとも、接待があるとき、そこには必ず引き込みたい権力の川が流れています。

そして国家公務員、特に財産とそれにまつわる多くの人達の法律関係を直接左右する執行官には、どのような接待があろうとも国家権力の川を守る堤防を決壊させない資質が求められています。

そうでない噂が街に立てば、あらゆる人がその堤防にシャベルを持って駆けつけるのですから。

 

 

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