犯罪被害者救済金が救えない監禁されていた少女

父殺された女性に遺族給付なし…監禁中“時効”と(goo)
「県警は、読売新聞の取材に対し、女性は欠席がちとはいえ小中学校に通っていたことなどを理由に、「もっと早い段階で警察への通報が可能だった」として、女性が逃げ出して事件が発覚した2002年当時、すでに給付できないと結論を出していたと説明している。」

犯罪被害者等給付金の支給等に関する法律の第10条をご覧下さい。

第10条(裁定の申請)

「犯罪被害者等給付金の支給を受けようとする者は、国家公安委員会規則で定めるところにより、その者の住所地を管轄する都道府県公安委員会に申請し、その裁定を受けなければならない。

2 前項の申請は、当該犯罪行為による死亡、重傷病又は障害の発生を知つた日から2年を経過したとき、又は当該死亡、重傷病又は障害が発生した日から7年を経過したときは、することができない。」 

外形的に、たとえ小学校、中学校に時々登校していたとはいえ、ことに子供にとってどういう類のおどしをされていたかにより自由意思の抑圧の程度は図ることはできないはずです。

かつて刑事未成年者の利用と意思抑圧に関してだされた判例として、名古屋高裁昭和49年11月20日判決というものがありました。

これは父親が 10歳の息子 Bを利用して窃盗を繰り返した事件でしたが、「金品を窃取してこない場合には殴打・足蹴りなどされていたことからすると、Bが自主的・主体的に行為したとは認められない」として父親の間接正犯を認めています。

つまり年齢を別として、子供が意思抑圧されていたことを理由に、父親こそ間接正犯であると位置づけているのです。

また大阪高裁平成7年11月9日判決は、交通事故現場で落ちているバッグを10歳の少年に取ってこさせた事件で、たとえある程度是非善悪の判断能力を有していたとしても「自己の言動に畏怖し意思を抑圧されているわずか10歳の少年を利用して自己の犯罪行為を行った」として大人のほうに窃盗の間接正犯を認めています。

また12歳の養女を連れて四国を巡礼中、養女の顔面にタバコの火を押しつけたりドライバーで顔をこすったりして暴行を加え窃盗を命じていたという有名な最高裁昭和58年9月21日判例もあります。

そこで最高裁は「被告人が、自己の日頃の言動に畏怖し意思を抑圧されている同女を利用して窃盗を行ったと認められるのであるから、たとえ少女が是非善悪の判断能力を有する者でも、利用した大人は窃盗の間接正犯になる」として意思抑圧型の間接正犯を認めています(以上参照:刑法判例百選)。

子供が意思を抑圧されることと、大人が意思を抑圧されることではあまりにもその意味は異なり、それゆえに刑法の判例も、それによって関係した大人の罪責を変えているはずです。

そうであれば、当然にその他周辺の法的評価も変えうる余地は見つけられるはずです。

もしそうでなければ、父親を目の前で殺され、その殺した張本人に長年虐待されながら同居を強制されていた少女を救えないこの10条2項は、法の欠缺と呼ばれる不名誉に服することになります。

犯罪被害者等給付金の支給等に関する法律10条2項の性質は、除斥期間であるものと考えられますが(私見)、除斥期間とは、法的効果の消除に関して時効のような融通の効かせかたをせず、有無をいわさずその効果を滅却しようとするものです。

その趣旨はひとえに法的関係性の安定、つまり一定期間をおいて、尚必要以上に法的関係を不安定にしないというところにあります。

ただしそうした大人のルールが、起算点の置き方ひとつで、すべてを申請期限当時わずか12歳で、しかも監禁中だった少女の責任にするなら、そこには本当に被害者救済と法的安定という法益の衡量さえあったのかどうかさえ疑わしくなってきます。
 


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