ステルスマーケティングとゲームをゲームとならしめるもの

「口コミ」マーケティングは悪か?消費者団体、FTCにバズマーケティングの調査を要請(CNET News.com)
「バズマーケティングや口コミマーケティングは最近登場した宣伝手法で、従来の型にとらわれない巧みなキャンペーンを通して、消費者の間に製品のウワサを広めることを目的としている。一例として、ニワトリの格好をした男性が入力された命令に従うウェブサイト「Subservient Chicken」が挙げられる。友人や家族が次から次へと紹介することで何百万ヒットも記録したこのサイトは、ハンバーガーチェーンのBurger Kingがスポンサーであるにもかかわらず、企業名が当初明かにされていなかった。 」

景品表示法の4条をご覧下さい。

不当景品類及び不当表示防止法

第4条(不当な表示の禁止)

事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号に掲げる表示をしてはならない。
一 商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と競争関係にある他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示すことにより、不当に顧客を誘引し、公正な競争を阻害するおそれがあると認められる表示(以下略)」 

あなたは駅前でふと人だかりをみつけます。

そこにはなにやら怪しげな金時計を5,6人の人達が興味深そうに眺めています。

あなたは好奇心からその人垣をのぞき込むと、あの有名なブランド時計が、市価の10分の1程度で売られているではありませんか。

しかもあなたは目の前で、客がそのうちの一本を購入する現場を見てしまいます。

売り子がいうには「事情があって在庫品を処分している。しかし残り本数はあとわずかだ」。

あなたは他のお客が財布を出そうとする様子を見て、負けてはならぬと我先にその偽の時計を買い求めてしまいます。

ほくほく顔でその場を離れるあなたには見えませんが、あなたの支払ったお金を、売り子とお客役のサクラが山分けしています。

事業者(売り子)はあなたに誤った情報を与えて、あなたに公正な判断をさせなかったのです。

情報を不誠実に隠匿するという面を強調すれば、ステルスマーケティングとはこういった手法に本質が似ており、それは消費者の権利を不当に侵害する危険性を含んでいるといえます。

かつてケネディ大統領は、消費者には4つの権利があると「消費者の権利保護に関する大統領特別教書」のなかでうたいました。

それは(1)安全を求める権利、(2)  知らされる権利、(3)選べる権利、そして(4)意見を聞き入れてもらえる権利です。

ステルスマーケティングではとくに消費者の「知らされる権利」、すなわち欺瞞的・誤認的広告で消費者が惑わされない権利をうっすらと侵害している危険性を指摘できます。

私たちの国では景品表示法があり,消費者と事業者の対等な経済活動を疎外するような景品や表示を禁止していますが、それはそいうった消費者を惑わせるような手法が、経済を堂々としたゲームとして成立させないからです。

現代においても、消費者はいまだ事業者の提供する商品を享受する存在としての一面が強く、裸の状態では力量として対等な存在だとはいえません。

消費者にも消費者保護基本法第11 条に則って、独禁法景品表示法など公正な競争を確保する法律が用意されたのはそのためで、それにより初めて事業者と消費者は互いに対等な自立したカードゲーム・プレーヤーになりえます。

ステルスマーケティングという手法が、そもそもの事業者と消費者の非対等性を忘れ、広告における費用対効果のグラフばかりをながめた結果編み出されたものならば、テクニックとはいえない範疇に踏み込んでいく危険性があります。



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