誤って射殺された電気技師とキングジョンの亡霊

射殺男性は爆破事件とは無関係=ロンドン警視庁 (Yahoo)

「ロンドン警視庁は23日、地下鉄ストックウェル駅で警官が射殺した男性は、21日の爆破事件とは無関係であったことを認めた。男性はブラジル人の電気技師で、3年前からロンドンに住んでいた。」

マグナカルタの39条をご覧下さい。

Magna Carta 39 due process of law

「No free man shall be taken or imprisoned or disseized or exiled or in any way destroyed, nor will we go upon him nor send upon him, except by the lawful judgment of his peers or by the law of the land.」 

(私訳)

「自由たる人は、法の下の裁判か国の法によらざれば、連行や拘束、奪取や法不加護、追放などを受けることはない。」

13世紀のはじめごろ、イギリスとフランスは領土や王権の話でたえず揉めるようになりました。

1209年、イギリスのジョン王はローマ教皇とけんかをして教会を破門されてしまいたし、フランスの王とけんかにまけてフランスにあった領土を失ってしまっていました。

そのうえで財政に行き詰まり、重税が国に課されるようになると、高い身分を有していた僧侶や貴族がこのだめな国王の舵取りに嫌気をさすようになっていました。

そこで彼らは国王に対して世界史上はじめて63個の条文を守らせることを約束させました。

これが世界最古の法律、マグナ・カルタです。

マグナ・カルタには現代、世界各国の掲げる憲法の、原形となった記述がいくつも書かれていました。

それはたとえば

・新税は貴族と僧侶に相談してから課すこと

・土地の相続税は気分次第で変えないこと

・City(ロンドン)には商業の自由やさまざまな特権を与えること

などです。

そしてマグナカルタのなかでも特筆すべき重要性をもった条文が第39条、適正手続(デュー・プロセス条項)だといわれます。

私たちの国の憲法も31条において適正手続の精神をマグナ・カルタから召喚しています。

そしていまやそれは地上に人間と権力被委託機関(国家)が有る限り、はずせなくなった、史上の産物であるといえます。

今回の事件の情報を世界各地の新聞でいろいろ読んでみると、誤射された電気技師のブラジル人青年は、もともと住所間違いから尾行されたうえ射殺されてしまったようです。

明らかに適正手続は踏まれていませんが、現在ロンドンでは licence to kill (殺しの許可証)が全警官に事実上出されているとさえ書く大衆紙もあります。

無法の世界を支配したキング・ジョンを墓から呼び出してしまうのは、いつの時代も恐怖心です。

そして terrorism の目的が terror (恐怖)の植樹である以上、適正手続の鎧を貫通して青年が射殺されてしまう事態は、テロルの一面的成功を表現してしまっています。
 

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