窪塚洋介さんの復活と商人のエストッペル

窪塚洋介の懐事情 「邪魔なんだよ」「シバくぞ!」(livedoor)
「前代未聞の“空中ダイブ”から1年余り。窪塚洋介(26)が発売中の「週刊女性」の取材に対して、かつての“窪塚節”全開だ。同誌が窪塚を直撃した理由は、夫人の“のんちゃん”(24)が仕事復帰した事情について尋ねるため。」

商法の14条をご覧下さい。

第14条〔不実の登記の効果〕

「故意又は過失に因り不実の事項を登記したる者は其の事項の不実なることを以て善意の第三者に対抗することを得ず」 

14条は、禁反言の法理、あるいは外観理論に基づき、不実の登記を信頼した人を、その登記につき帰責事由のある人の犠牲で保護した規定です。

例えば株式会社の取締役を辞めた人が、代表取締役に頼まれて取締役であることの登記を形だけ残存させることを許可していたとしましょう。

このとき、実際には辞めていた取締役を辞めていないと信じて取引に入った相手方がいた場合、14条の類推適用により辞めた人はその相手方に対しては取締役として責任をとれとした判例があります(最高裁判例 昭和62年4月16日)。

こういった強引な論理が認められる背景は、もし常に真実、たとえば取締役は真実には辞めていたのだから責任は取らせないとすると結局、商取引では登記と別にイチイチ事実を確認しなければ取引ができなくなり、毎日大量の人が関わって行われている企業活動が発展する余地がなくなるからです。

つまり登記の記録のほうを事実より優先させて、登記に対する信頼を保護し、安心して取引できる商社会を創ろうという趣旨なのです。

この観点を商法上、「取引の安全」と呼びます。

外観主義に基づく商法上の各条は、ドイツや英米の法律を参考に設置されていますが、ドイツ法におけるそれを権利外観法理、英米法におけるそれを禁反言の法理と呼びます。

両者は同じ作用をもたらしますが、ドイツ法の権利外観法理が社会の損失という「表示をされた側」に視点を置いたものであるのに対し、英米法の表示による禁反言の法理(estoppel by representation)の方は、表示した本人の責任追及という「表示をした側」に視点を置いたものです。

禁反言の法理はひとことで「エストッペル」などと呼ばれもします。

窪塚さんはご長女が誕生された際に、「ピースな愛のバイブスでポジティブな感じでお願いしますよ」という有名な一言を残しました。

その発言は今回の「邪魔なんだよ」「シバくぞ!」という発言とは趣旨が180度反しますので、まさに反言ということになります。

窪塚洋介さんがもし商店だったら禁反言の法理により、、ピースな愛のバイブスを普段言動を通じて社会に登記していたタレントさんとしての責任を問われ、どのような下世話な記者の質問であろうとも、ファンへの影響を考えて暴言を撤回するポジティブな感じの態度が再度要求されそうです。

ただし私には世の中が茶化すほど、窪塚さんが言わんとしている気分がわからなくもありません。

才能ある人の周りには普通の生活をしている私たちには想像できないほど、自分を利用しようとして集まる人たちがいるでしょう。

また私たち自身も、彼の演技で普段楽しんでいたとしても、街で見かければ無遠慮に写メールの餌食にしているかもしれません。

自分や他人への怒りが渦巻いて苦しい間、人はピースとかラブとかいう言葉を自分の唇に何度でも乗せて自分の気持ちを静める必要がありますし、そういう気分は人間ならどんな聖人でも持つ可能性があります。

しかしあまりにも自分や他人が許せなくなれば、最後にはその苦しみに生きるのが面倒くさくなる可能性さえあります。

窪塚洋介商店なら内紛の解決、つまりまず自分と折り合いをつけ、正しい登記と、登記通りの商行為(才能の発露)を見せてくれるはずです。

 

 

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