食衛法が知っている、虚偽表示という伝統芸

イトーヨーカ堂元社員ら6人逮捕 現役の女社員も うなぎ輸入元偽装

「大手スーパー「イトーヨーカ堂」(東京)の元社員らが中国産うなぎの輸入元を別会社に偽装して転売したとされる事件で、神奈川県警は18日、食品衛生法違反(虚偽表示)の疑いで、同社元食品事業部海外担当マネジャー、石原荘太郎容疑者(58)=千葉市若葉区加曽利町=ら6人を逮捕した。県警によると、石原容疑者ら5人は容疑を否認しているが、残る1人は「詰め替えをしたのは間違いない」と認めている。」


食品衛生法の第72条をご覧ください。

 

第七十二条 

第十一条第二項若しくは第三項、第十六条、第十九条第二項、第二十条又は第五十二条第一項の規定に違反した者は、二年以下の懲役又は二百万円以下の 罰金に処する。

② 前項の罪を犯した者には、情状により懲役及び罰金を併科することができる。


食品衛生法による罰則は、行政罰、つまり行政上の目的のためにする命令や禁止に対する違反に対し制裁として科せられる罰の一種です。

対置概念としては殺人罪等の法益侵害行為そのものの反社会性、犯人の悪性への制裁として科せられる罪である刑事罰があります。

ただし、現在の学者の通説はこの刑事犯と行政犯のあいだに本質的な差を認めず、行政刑罰にも、本来は刑事犯についての定めである刑法の適用があるものとしています。

よって通説によれば行政刑罰についても刑法第38条第1項の適用があることとなり、罰を科すためには行為者に故意があったことを必要とすることになります。

例えば、発がん性のある添加物が加わったうなぎを販売した者を食品衛生法第20条虚偽表示禁止違反として、第72条により2年以下の懲役又は200万円以下の罰金に処するためには、その販売者に故意のあったことを要するわけです。

つまり食品衛生法上の罰則を課すためのハードルは比較的高めに作られており、捜査機関が逮捕にいたるまでには故意の認定というハードルをクリアしていることを意味しています。

実際の裁判例でも、食品衛生法の罰則適用には故意を要件とするという、通則の立場に立った昭和37年5月31日の広島高等裁判所判例があります。

 

食品衛生法は、罪の重さを4ランクに分けています。

平成15年の改正前まで、虚偽誇大な広告等の禁止条項は6ヶ月以下の懲役、30万円以下の罰金にすぎませんでしたが、改正により2年以下の懲役、200万円以下の罰金という上から二番目に重い罰則に引き上げられています。

食品業界において虚偽誇大表示はあまりに古くから多く発生しつづけてきた、終わらない犯罪だからです。

さらに新72条ではこれを法人が主体で行った場合、1億円以下の罰金を課すという特別ブレーキまで用意しています。

 

そもそも食品、添加物等に関する適正な表示は、消費者や関係営業者に対し、その食品等に関する的確な情報を与え、これらの者の合理的な認識や選択に資するために不可欠のものです。

さらには、行政庁の迅速かつ効果的な取締りのためにも欠くことができません。

たとえば、期限表示や製造者の氏名及びその住所などの表示は、消費者が購入する際の選択の指標となるとともに、万が一事故が生じた場合には、その責任の所在の追及あるいは製品回収等の行政措置を迅速かつ的確に行うための手がかりともなるものです。

表示の虚偽に用意されている罰が重く醸造されてきたのは、口に入れるものを扱う業者へのウォーニングと、それが繰り返し軽視されてきた歴史のなせる業です。

 

わたしやあなたの暮らす社会に、人間の健康を売り上げより軽視する業界慣習が残っているのなら、それもまたこの時代を生きるわたしたちの宿題です。

わたしたちにはこれからも法が現実によりアジャストするよう働きかけ、その伝統芸をひとつひとつつぶしていく責任が任されています。

(以上参照:新訂 早わかり食品衛生法 第3版 (食品衛生法逐条解説)