露命と法人

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絶縁状つきつけた!キン肉マン作者が吉野家と確執激白(産経新聞)
「《キン肉マンが29周年むかえたときお祝いの一環として集英社(=発行元)が吉野家に「なにかお祝いしませんか 今こそ恩返しするチャンスです」てふったところ「いや私どもはやる気はありません」と そこで手を挙げたのがすき家さんで「なか卯とうちは業務提携してます。ぜひともお祝いさせてください」》」「嶋田氏は吉野家から《永久でタダで食えるふれこみ》のどんぶりを受け取ったが、実際は無料にならなかったという。嶋田氏は最後に《決して吉野家さん嫌いにならないでください。今や牛丼は国民食》と訴えているが、同社のイメージダウンは避けられない。」

民法の709条をご覧ください。

 
第709条(不法行為による損害賠償)

「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」

民法上,人の声価に対する社会的評価を「名誉」といいます。

もし人を誹謗する記事を新聞に載せた場合のように、名誉を違法に侵害して人の社会的声価を低下させると、名誉毀損として不法行為になります。

このとき用いられるのが民法709条です。

平成9年のロス疑惑報道事件最高裁判決では、事実摘示と意見・論評の表明の判別基準にはじめて言及がなされ注目されました。

ロス疑惑報道事件とは、ロスアンジェルスで原告Xの妻Zが誰かに銃撃され死亡した事件につき、夕刊紙が「Xは極悪人,死刑よ」」「Bさんも知らない話… …警察に呼ばれたら話します」とのタイトルを用い、記事本文中には「元検事にいわせると,Xは『知能犯プラス凶悪犯で,前代未聞の手ごわさ』という」との記述をしたとの掲載を行い、これに対して原告が名誉毀損の損害賠償を請求した事件です。

最高裁は、「重要な部分について真実であることの証明があったときには・・・右行為は違法性を欠くものというべきである。そして仮に・・・真実であることの証明がないときにも、事実を摘示しての名誉毀損における場合と対比すると、行為者において右事実を真実と信ずるについて相当の理由があれば、その故意又は過失は否定されると解するのが相当である。」と前提を置き、その上で、

「原判決は・・・真実と信ずるにつき相当の理由があったか否かを特段間うことなく、その名誉毀損による不法行為責任の成立を否定したものであって、これを是認することができない」と結論づけています。(つまり報道側の負けです)

このように一定条件の下、意見・論評の表明による名誉毀損が免責の対象になることを、フェアコメントの法理と呼んでいます。

これらは、確実に真実性証明の可能な事実しか報道・論評できないとすると、公の問題に関する言論をいちじるしく萎縮させてしまうという点に法理が求められます。

ロス疑惑報道事件判決により、”公正な論評の法理”が学説を超えて判例上も確立したといえるのです。

 

飲食産業と、彼らの業界をマンガで応援することになった作家が過去の応対を巡ってtwitter上で応酬する事態になっています。

たとえ現実はひとつでも、居合わせた人の数だけその心理的事実は存在しています。

彼の発言がフェアコメントの域に収まるうちは、判例法理上も民事責任を問われることはないでしょう。

そしてこうしたやりとりがあからさまになる時代、法技術により永遠に生き続けることが許された法人、つまり虚人が、やがて命尽きる自然人と対立するとき、法人に礼節の態度が要求されることの意味が再び浮かび上がるようにも思えます。

 

(参照資料)