起訴議決:刃先は官吏が定める

明石歩道橋事故 検察審査会初の判断、検察起訴に大きな一石
明石市の花火大会事故で、神戸第2検察審査会は事故当時の明石署副署長について起訴相当と判断した。この結果、元副署長は強制的に起訴され、法廷で刑事責任の有無が審理されることになる。」(iza)

検察審査会法の第41条の6をご覧ください。

検察審査会

第41条の6

検察審査会は、第41条の2の規定による審査を行つた場合において、起訴を相当と認めるときは、第39条の5第1項第1号の規定にかかわらず、起訴 をすべき旨の議決(以下「起訴議決」という。)をするものとする。起訴議決をするには、第27条の規定にかかわらず、検察審査員8人以上の多数によらなけ ればならない。」

 

わたしたちの国では、たとえ犯罪が成立し訴訟条件を具備していたとしても、検察官の裁量で起訴猶予処分として訴追しないことが認められています。

これを起訴便宜主義といいます。

しかしこれは、たとえば捜査機関の内部犯行については身内をかばう意識からこれを不起訴処分とするようなことが起こりうる可能性を孕んでいます。

そこでこれに対するチェックシステムが必要になります。

そして検察官の不起訴処分に対するチェック・システムのひとつが検察審査会制度です。

検察審査会とは、衆議院議員の選挙権を有する人たちのなかからくじで選ばれた11人のことです。(任期は六か月)

しかしながらこれまで検察審査会の議決は参考とされるのみで、検察官の判断を法的に拘束することはできませんでした。

このため2004年の法改正で、この点に法的威力を加えたのが起訴議決という制度です。

起訴議決とは、検察審査会の審査を二段階にして、第一段階の審査で起訴相当の議決をしたのに検察官が再度不起訴処分をした場合、第二段階の審査を開始することとし、その審査であらためて起訴相当の議決をしたときは、この起訴議決に公訴提起の効果を認め、指定弁護士が公訴を提起し、公判の維持にあたるというものです。

強制起訴とは、この起訴議決制度の通称です。

実は世界には私人訴追主義を標榜するイギリス、公訴と並んで被害者に私訴権を広くみとめるフランス、一定の犯罪に限ってですが被害者である私人にも訴提起の権利を認めるドイツ、一定の犯罪について検察官が起訴しなかった場合に補充的に私人に訴追をみとめるオーストリアなどが存在しています。

これに対してわたしたちの国では、被害者に私訴権を認めず、公訴の提起及び遂行を国家機関だけに許しています。

これを、国家訴追主義といいます。

そして国家訴追主義のなかでも、わたしたちの国はさらに研ぎ澄ませた形で検察官だけに訴追権を与えています。

これを起訴独占主義とよびます。

ヨーロッパ諸国に比べれば、わたしたちの国は最も徹底した国家訴追主義をとっているのです。

この構図から検察官は本来、国の公益を代表して公訴を私情を挟まず提起してしかるべきです。

しかし被害者から訴権を奪って国家がそれを独占し、その行使を官僚的組織の手に委ねられているという構図は、同時に被害者には必ずしも保証されていないことをも意味しています。

そしてこれが冒頭の起訴便宜主義と結びつく時、場合によっては検察官に与えられた刃がどちらに向かってにぶく光るのかわからなくなる場合さえ想定出来ます。

わたしたちに新たに与えられた起訴議決という機能は、そもそも犯罪の被害者にあったはずの訴権を国家が独占している仕組みに対し、欧州のように一定の修正を与えていることになるのです。

(参照 刑事訴訟法 (法律学講義シリーズ) ) 

楽しいはずの花火大会を見た後で、いくつもの命が歩道橋のなかでつぶされていきました。

その場所で幼い命をなくした一人の父親の奔走が、民意の反映というくさびを法に打ち込んでいます。