砦は彼を無罪とし、わたしたちはその仕組みに同意した

羽賀研二さん無罪 求められる「緻密な捜査手法」(産経ニュース)

「最大の争点は、羽賀さんが未公開株を取得した額が1株40万円だったことを被害者が認識していたか否かだった。公判で羽賀さんが「40万円と伝えた」といえば、被害者は「聞いていない」と応酬した。水掛け論に決着を付ける決め手になったのは、羽賀さんの知人の男性歯科医という“第三者”の証言だった。歯科医は、結審後に異例の形で再開された法廷で「被害者と同席した場で羽賀さんから取得額を聞いた」と証言。これに反論する検察側の根拠は被害者証言しかなく、被害を裏付ける客観的な証人を用意できなかった。」


刑事訴訟法の313条第1項をご覧下さい。

第313条〔弁論の分離・併合・再開〕

「裁判所は、適当と認めるときは、検察官、被告人若しくは弁護人の請求により又は職権で、決定を以て、弁論を分離し若しくは併合し、又は終結した弁論を再開することができる。 」

 

刑事裁判上、証拠調べが終わった次は、当事者の意見陳述がなされることになっています。

これを弁論といいます。

この弁論はまず検察官が事実、法律の適用について意見を陳述します。

これを論告といいます。

そして通常、検察官は論告に際して具体的な刑の量定についても意見をのべます。

これが求刑です。

ついで、被告人および弁護人も意見をのべることができます。

これが最終弁論であり、被告人および弁護人には最終に陳述する機会が与えられています。

これを最終陳述権の保障といいます。

普通、先に弁護人が弁論してから、被告人が最終陳述をなしています。

これらの手続が終わると、弁論(公判の審理)は終結することになります。

これが結審です。

後は、判決の宣告を残すだけです。

ただし例外的に終結した弁論が再開されることもあります。

これが313条第1項、弁論の再開です。

弁論の再開によって公判手続は弁論終結前の状態に戻り、先の弁論と一体となります。

したがって一旦弁論が終結したとしても、判決言渡しまでは事実審理の可能性があるわけです。

弁論の再開は、通常従前の主張立証が不備であったり弁論終結後に新たな事情が生じた場合などにおいて、裁判所の裁量により行なわれます。

「判決言渡しの時こそ事実審理の可能性のある最後の時である」というのが、313条1項が示す法意だからです。(札幌高等裁判所 昭和28年11月19日判例)

それは、人が人を裁くという無理をするときには、極限まで時間を使って彼の行為を吟味しようというのが、人権の最後の砦である裁判所の採るべき態度だからだともいえます(私見)

 

有名なタレントさんの詐欺容疑は、再開された弁論における証拠調によって無罪判断が下されました。

そこには裁判所に弁論の再開を決定させるほどの特別な証拠の出現が主張があったにちがいなく、同時に証人尋問の証拠調に対して保証されている293条、意見陳述の機会を、検察は生かし切ることができなかったからにほかなりません。

戦前、検察官は裁判官と同じ高さの壇上から被告人を見下して裁判に参加していました。

しかしながら、現在の私やあなたは検察官と弁護人を対等の高さに立たせ、その主張の総括を裁判所にゆだねる仕組みに同意しながら暮らしています。

 

(以上参照資料)