大麻取締法のなかに現れる使用不可罰という霊山

【角界大麻汚染】露鵬と白露山「全くやったことはない」 警視庁聴取に(iza)
「ロシア出身の兄弟力士、西前頭3枚目の露鵬(28)=本名、ボラーゾフ・ソスラン・フェーリクソビッチ=と東十両6枚目の白露山(26)=本名、ボラーゾフ・バトラズ・フェーリクソビッチ=の尿からマリフアナ(大麻)の陽性反応が出た問題で、両力士が警視庁組織犯罪対策5課の任意の事情聴取に「(大麻を)全くやったことがない」などと話していたことが3日、分かった。大麻取締法には大麻使用罪の規定はないが、同課は引き続き関係者から事情を聴くなどして慎重に調べを進める。」

 

大麻取締法の24条の3をごらんください。
 

24条の3

「次の各号の一に該当する者は、5年以下の懲役に処する。

1.第3条第1項又は第2項の規定に違反して、大麻を使用した者
2.第4条第1項の規定に違反して、大麻から製造された医薬品を施用し、若しくは交付し、又はその施用を受けた者
3.第14条の規定に違反した者」

 
大麻取締法には栽培罪、輸入・輸出罪、譲渡・譲受罪、所持罪などは規定されていますが、たしかに肝心の使用を罰する規定が存在していません。

24 条の3の1項1号には「大麻を使用した者」という文言が出てきますが、これは大麻取扱者の資格を持たない人が研究のために使用したり、大麻所持を法で許された人が目的以外で大麻を使用することを意味しています。

それは一般人が大麻を吸食する行為を含んでいないのです。

そこで大麻関係の検挙には24条の2、所持罪が常に持ち出されることになっています。

その法律構成ですが、「通常大麻の吸食行為には大麻の入手が前提で、当然に所持が伴うものと考えられ、24条の2にいう所持に当たる」と解釈します。

当然解釈の限界事例も発生しますが、それよりも問題の核心はなぜ、法が使用を直接禁止していないかです。

相当量の法学書籍にあたりましたが、”農家を罰しない””検出が難しい”など表面的な説明を除き、こと「何故大麻取締法には吸食行為を罰する直接規定が存在していないのか」という本質部分を解説する文章には、とうとう行き当たることができませんでした。

それでも吸食不可罰というエリアは、大麻取締法のなかで立ち入ることを禁じられた霊山のように厳然と存在しつづけてきています。

唯一、「大コンメンタール 薬物五法」における24条の3 使用罪の条解において、

「なお,本号の「使用」には,大麻の吸食行為は含まないことは,前条の注釈で述べたとおりである

(植村・90頁は,「吸食行為は,第3条2項の使用に含まれる。」とするが,そうだとすると,大麻取扱者の吸食行為は可罰,他方,大麻取扱者以外の者の吸食行為は不可罰(後述の意義からして研究のための吸食は観念しえないであろう)となり,両者に差を設ける合理的理由が説明できない。

やはり法は,大麻については,その吸食行為を処罰の外に置いていると解する他ないであろう)」

とある箇所に、筆者言外のメッセージを個人的に感じただけです。(薬物五法 麻薬及び向精神薬取締法・麻薬等特例法 (大コンメンタール)

 

結局のところ、法律学的解釈によっては大麻取締法が吸食行為に何故罰則規定を置かないのかを説明するのは難しく、しかしながら法は事実として頑なに吸食行為の法による罰則化を回避してきたということだけはいえそうです。

そしてもしかするとそこから先は、とても特別な分野の書物をひもとかなければならないのかもしれません。


(参照書籍)