一事不再理:主権のリトマス紙

三浦容疑者、3カ月ぶり審理再開 ネット参加も陳述なし
ロス疑惑銃撃事件で米自治領サイパン島に拘置されている元会社社長、三浦和義容疑者(61)=日本で無罪確定=の逮捕状取り消し請求の審理が15日、約3カ月ぶりにロサンゼルス郡地裁トーランス支部で再開された。この日は、インターネットを利用した映像を通じて三浦容疑者本人がサイパンの拘置所から審理に参加したが、意見を陳述する場面はなく、審理にじっと耳を傾けていた。この日の審理で、検察側は「一事不再理」原則の適用の是非について、「米国で問われている共謀罪は日本では存在しないため、同原則は適用されない」と主張。日本の法制度研究の専門家を証人に呼び、立証を試みた」

逃亡犯罪人引渡法の第2条7号をごらんください。

第2条(引渡に関する制限)

「左の各号の一に該当する場合には、逃亡犯罪人を引き渡してはならない。但し、第三号、第四号、第八号又は第九号に該当する場合において、引渡条約に別段の定があるときは、この限りでない。

 七 引渡犯罪に係る事件が日本国の裁判所に係属するとき、又はその事件について日本国の裁判所において確定判決を経たとき。」

 

 

逃亡犯罪人引渡法は,外国から我が国に対して逃亡犯罪人の引渡請求があった場合の引渡要件および手続きを定めています。

もともと日本が締結している二国間の引渡条約としては「日本国とアメリカ合衆国との間の犯罪人引渡に関する条約」と「犯罪人引渡に関する日本国と大韓民国との間の条約」が存在しています。

そしてその上で逃亡犯罪人引渡法は、日本との引渡条約を締結していない外国に対しても相互主義の保証があれば引渡を行いうるものとしています。

そうした法の性質を鑑みれば、日本の引渡に関する法は、引渡条約の締結を引渡しの要件とする条約前置主義を採用する英米と比較してある意味非常に寛大であるともいえます。

ただし法2条7号を見てみれば、「一事不再理」の法理に該当する場合、逃亡犯罪人の引渡しを行ないえないこととなっています。

ここで一事不再理とは、「有罪・無罪の実体判決、又は免訴の判決が確定した場合には、同一事件について再び審理することを許さない」という法哲学です。

それは必ずしも日本独自の理屈ではなく、大陸法も、そしてアメリカ憲法修正5条も「二重の危険」という呼び名により明文でこれを禁止しています。

すなわち、わたしたちの国が誰かを裁いて有罪なり無罪なりの決断を下したにも関わらず、同じ罪で再びどこかよその国がその人物を裁くのだとすれば、その人物の尊厳は国家間の事情次第で著しく損傷することになるからです。

もとより米自治領サイパン島で拘束された三浦和義さんの場合、我が国の逃亡犯罪人引渡法が発動する場面ではありません。

しかしながらひとつの国家が、逃亡犯罪人引渡法という他国との間に立てた法律において二重の危険を禁忌しているのは、ミクロ的に人権を保護すると同時に、マクロ的に国家主権の不可侵を再確認しているからにほかなりません。

個人の運命とは別の次元で、一事不再理というリトマス試験紙が国家主権のありようを揺らしているように見えます。(私見)

 
 

(参照文献)