高級な暖簾の向こうで育ちをあかそう

船場吉兆、使い回し「20年以上」…関係者証言(読売新聞)
「同社関係者によると、使い回しは、1991年に法人化される前の「吉兆船場店」時代からで、少なくとも20年以上にわたって続いていた。客が手をつけずに回収された銀ダラやハモ、牛肉などの焼き物を再び調理して提供していたほか、折り詰め弁当に入れることもあったという。また、刺し身に使うワサビは、客がはしをつけて半分ほど残った場合も回収してしょうゆに混ぜ、「ワサビじょうゆ」として別の料理に使っていた。うな丼は電子レンジで温め直したうえで器を替え、石焼きにする魚介類、フルーツゼリーなどはそのまま別の客に出すこともあったという。」

食品衛生法の6条4号をご覧下さい。

「6条 次に掲げる食品又は添加物は、これを販売し、又は販売の用に供するために、採取し、製造し、輸入し、加工し、使用し、調理し、貯蔵し、若しくは陳列してはならない。

4.不潔、異物の混入又は添加その他の事由により、人の健康を損なうおそれがあるもの。」 

食品衛生法とは、その第一条によれば飲食に起因する衛生上の危害の発生を防止しようとしている法律です。

そこでいう飲食に起因する危害とは、飲食物に起因した危険という意味よりは広くなります。

その文言は直接飲食する食品のみならず、飲食行為に関連して生じる危険、たとえば食器や包装紙などの衛生も守備範囲としています。

さらにはおもちゃや洗浄剤をもその各種規制の対象としており、その意味で非常に警戒心の高い法律だといえるでしょう。

そして細菌による食中毒のほか、化学物質を原因とする食中毒、経口伝染病、異物の混入も食品衛生法上にいう「衛生上の危害」に含まれます。

総じればそれらの危機を産むような商人の営業態度に対して罰則を用意することで一般予防を図り、また事故発生後には迅速に処置を講じようとする法律、それが食品衛生法だといえます。

ところでその6条4号では不潔、異物の混入又は添加その他の事由により、人の健康を損なうおそれがある食品の提供を禁止しています。

6条は食品衛生法という規制の骨格をなす基本的な規定です。

その4号はあきらかに危険な食品の提供禁止を定めた1、2、3号以外でも、やはり危険が憂慮される性質のものを提供することを禁止しています。

不潔と異物が例示されていますが、4号の守備範囲はそこにとどまらないのはもちろんのことです。

「その他の事由により、人の健康を損なうおそれがあるもの」という文言は、条文の網からすり抜けようとする商人の横着な態度から消費者の健康を守ろうと、あらゆる事態へ向けて広く張り巡らされているのです。(以上参照:新訂 早わかり食品衛生法 第2版 [食品衛生法逐条解説]

更にはこれに違反した商人には、71条1号が3年以下の懲役又は300万円以下という重い罰則を用意しています。

このように食品衛生法のプロポーションを眺めてみれば、わたしたちは口に入れる物を商材とする商人に対しては、慎重のうえに慎重な安全確認を要求しつづけてきたことがわかります。

高名な料亭の調理場で食品の使い回しが開店当初からあったことが暴露されましたが、食品衛生法6条4号にいう「不潔」という言葉は、必ずしも科学的に測量できるものでもなく、いわば感覚的な判断基準です。

よって、ことによるとその料亭の行為は厳密に言うと6条4号の構成要件該当性を充足させることなく、食品衛生法の手をすり抜けてしまうかもしれません。

しかしながら、このような人たちが商人として掲げてきた暖簾を、わたしたちがありがたがることだけは、もはやないかもしれません。