アジャン・プロヴォカトゥール:教唆する刑事

【衝撃事件の核心】おとり捜査“暴露” 「協力したのにパクられた」訴状の生々しさ(iza)
最高裁は平成16年7月、(1)直接の被害者がいない薬物犯罪などの捜査(2)通常の捜査方法では摘発が困難(3)機会があれば犯罪を行う意思があると疑われる者が対象-の3条件を満たす場合は適法との判断を示している。Aさんの提訴を受けた佐賀地裁はこの最高裁判断に照らし、県警の捜査手法が適切だったかを検討するとみられる。今回の提訴について佐賀県警は、「Aさんの身の安全を考え、誰が通報したかを分からないようにするため、5人を同列に発表した」としている。」

刑事訴訟法の197条1項をご覧ください。

第197条

「1 捜査については、その目的を達するため必要な取調をすることができる。但し、強制の処分は、この法律に特別の定のある場合でなければ、これをすることができない。」

おとり捜査とは、捜査官あるいはその協力者が犯人と目ぼしをつけた者に対し罪を犯すようそそのかし,その者が犯罪を行なったところで逮捕する捜査方法のことです。

おとり捜査の存在が発覚した場合、刑事訴訟法上そもそもそのような捜査方法の適法性が問題となります。

この点アメリカには、「本来潔白な市民を処罰するために捜査機関において同人を罠に陥れて犯罪を行なわせることを立法府が容認する考えであるとするのは困難である」とする”罠の抗弁”という刑事訴訟法上のロジックが存在しています。

日本でもこれに沿って「軽率であるが潔白者が罠にかかり,犯意を誘発された場合には刑事責任を免れる。しかしもともと犯意を有していた者が機会を与えられたにすぎない場合は手続的にも適法で責任を免れない」と考える法廷結論が主流です(東京高等裁判所 昭和62年12月16日判例)

この種の捜査方法は、麻薬犯罪のような犯罪の性質上,直接の被害者が存在せず、反復継続して,かつ隠密裡に遂行され、客観的証拠の取得・保全が通常の方法では著しく困難であると認められるとき時折用いられているようです。

現に麻薬及び向精神薬取締法58条も「麻薬取締官及び麻薬取締員は、麻薬に関する犯罪の捜査にあたり、厚生労働大臣の許可を受けて,この法律の規定にかかわらず何人からも麻薬を譲り受けることができる」と規定し、明文をもって麻薬犯罪に関するおとり捜査を合法としています。

そして判例も確かに麻薬犯罪に関しては、おとり捜査を前提としてなされた公訴提起を有効としています。

しかしもし、おとりの結果犯されようとする犯罪が、第三者の生命・身体・財産に対する直接的侵害を内容とするとき、たとえば強盗などにおいては、おとり捜査の協力者を国家が裏切ったことを論ずる以前に、おとり捜査を用いたこと自体が違法とだと結論づけられても一般的な感覚からすればおかしくありません。(以上参照:条解 刑事訴訟法

司法警察職員がそれをひそやかに見届けるには、事案があまりにも危険を伴うからです。(私見)

おとり捜査という手法は、行為者の人格的権利・利益を国家が侵害・危殆化してしまう危険性を内包しています。

そこからは、そもそも刑事訴訟法がその197条で任意捜査の原則を定めたことの趣旨を破壊してしまう火薬の匂いがします。

いわんや協力者が事前に国家へやりたくない旨申告している場合には、論を待たないのです。