弁護士懲戒請求という、自由への安全弁

弁護士ガチンコ勝負「今枝VS橋下」 光市事件懲戒請求訴訟 (iza)
山口県光市の母子殺害事件で、殺人などの罪に問われた男性被告(26)=事件当時(18)=の弁護団に対する懲戒請求をテレビ番組で呼びかけ、弁護士業務を妨害したとして、今枝仁弁護士ら弁護団のメンバー4人=いずれも広島弁護士会=が橋下徹弁護士=大阪弁護士会=に1人当たり300万円の損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が27日午後、広島地裁(橋本良成裁判長)で開かれる。」

弁護士法の第58条1項をごらんください。

第58条(懲戒の請求、調査及び審査)

「1 何人も、弁護士又は弁護士法人について懲戒の事由があると思料するときは、その事由の説明を添えて、その弁護士又は弁護士法人の所属弁護士会にこれを懲戒することを求めることができる。」 

弁護士の仕事は、時として国家権力と対峙することがあります。

もし弁護士懲戒権限を、その国家が有していると、弁護士が国家に対して弱体化し、私達の人権はまた飾り物に逆戻りしてしまう可能性があります。

そこで、弁護士に対する国家機関の監督を排除し、自治団体である弁護士会と日本弁護士連合会に懲戒権限を付与することが求められます。

これが現行の弁護士法に、自治的懲戒制度が導入されている理由です。

旧弁護士法下では、現行法の自治的懲戒制度とは反対に、国家が弁護士に対する懲戒権を有していました。

そのため、弁護士の自由な職務活動が制限されることを憂い、弁護士による自治的懲戒制度の実現が強く叫ばれたのです。[参照:高中正彦 弁護士法概説]

懲戒請求は、58条1項で、誰でもその必要があると思えばなすことができると定められています。

それは懲戒請求が、国家からでもなく、一般市民からでもない、弁護士会内でのみ起案され、処理されるとすれば、その制度は腐敗することが予告されたも同然だからです。(私的解釈)

今枝さんと橋本さんの裁判は、軽々に双方の善意を図ることはできません。

一見そうは見えないかもしれませんが、この場合、原告・被告のいずれもが、”弁護する人の正義とは何か”について、建前でなく全身を賭けて争おうとしているからです。

そこには”人の存在とはなにか”という、大命題へつながる哲学的なテーマさえ転がっています。

しかしただ一つ非常に残念な点は、当該弁護士会は請求者の住所、氏名を載せたままの懲戒請求をそのまま当該弁護士に渡してしまっている点です。

そのことで請求をした一般市民達は、懲戒請求を受けた弁護士から求釈明書を送られてしまっています。

そもそも懲戒請求はあくまで弁護士会へ懲戒権の発動を促す申立てにすぎません。

そして懲戒請求手続は弁護士法に定めがないため、その運営は各弁護士会の会則に完全に任せられています。

そのため、もしどこかの弁護士会に、弁護士懲戒制度の趣旨を体現するつもりがなければ、制度はすぐさま形骸化し、それは遡って国家と対決するつもりのない弁護士を量産する社会を呼び戻してしまうことになるのです。(私見)

「懲戒請求は誰でもすることができる」、58条1項のそうした文言は、一人一人の人が安全で平和に暮らせる社会の安全弁でありつづけるべきものなのです。

 

 

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