まことちゃんハウスと時間の囚人

楳図さん自宅建築に待った=住民ら中止求め仮処分申請-東京地裁時事通信
「「まことちゃん」などの作品で知られる漫画家楳図かずおさん(70)が東京都武蔵野市内に建築中の自宅が、周囲の景観を破壊するとして、近隣住民2人が1日までに、楳図さんと施工者の住友林業(東京)を相手に、建築中止を求める仮処分を東京地裁に申し立てた。建築場所は同市吉祥寺南町の住宅街で、近くには井の頭公園がある。申立書によると、楳図さん宅の建築工事は3月に始まり、住民らは5月ごろ、自宅の壁が赤白の横じま模様に塗装され、屋根の頂上には「まことちゃん」の立像が設置されることを住友林業の担当者の説明で知ったという。住民側は「地域住民は良好な景観を維持する義務を負っており、景観を破壊する建物の建築差し止めを求めることができる」と訴えている。」

民事保全法の23条1項をごらんください。

第23条

「係争物に関する仮処分命令は、その現状の変更により、債権者が権利を実行することができなくなるおそれがあるとき、又は権利を実行するのに著しい困難を生ずるおそれがあるときに発することができる。(以下略)」 

私法上、つまり国対個人を扱う法律ではなく、個人対個人を規定する法律上の請求権を強制的に実現するには、債務の名義を取得して各種の強制執行を実施しなければなりません。

しかし現実には訴えを起こしてから判決を得るまでには、かなりの日数を要します。

それにより判決までの間に、債務者がその一般財産や請求権の目的物を譲渡・隠匿、毀滅してしまうブランクが生じてしまいます。

そういった権利や法律関係の確定・実現が遅れることで生じる危険を防止する法的手段の制度が、民事保全という制度です。

それは以前、民事訴訟法や民事執行法において、仮差押え、仮処分と呼ばれたものを総じて平成3年から施行された民事保全法が規定しなおしたものです。(参照:民事執行法・民事保全法 福永有利 有斐閣

民事保全法23条1項は金銭債権以外の権利を対象として、将来の債務名義による権利の実行を保全するために、現状の維持を命じます。

つまり現状の変更により、債権者の権利の実行が不能または著しく困難になるおそれがある場合に発令されるものです。

それは民事の争いにおいて争点を一旦時間の流れから凍結させる、民事訴訟の特別補完装置だと言い換えられます。

もしわたしたちの生命に寿命というものがないのなら、わたしたちには時間の流れの中で悠長に権利関係の行方を争うことも可能でしょう。

しかしわずか100年たてば、今この世界に生きている人達は皆地上から消えてしまっています。

民事保全という緊急サイドブレーキが民事法に備え付けられていることも、もとはといえばわたしたちが時間的に極めて限られた存在でしかないことにゆえんしています。(私見)

 

 

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