官房の声に官僚はそれがどうしたと答えた

厚労省の電子申請、欠陥ソフトを放置・情報流出の恐れ(日経新聞)
雇用保険の申請などができる厚生労働省の電子申請・届け出システムを使用する際に必要なソフトウエアに欠陥があり、システム利用者がインターネットに接続すると情報が流出する恐れのあることが5日分かった。同省は6月下旬に内閣官房情報セキュリティセンターから指摘を受けたが、利用者に注意喚起しないまま放置していた。」

情報セキュリティセンターの設置に関する規則2条2項をごらんください。

情報セキュリティセンターの設置に関する規則

「2 センター長は、内閣官房組織令第10条の内閣官房副長官補をもって充てる。」 

内閣官房情報セキュリティセンター(NISC)とは政府がITにおける情報管理のリスクマネジメントのため、基本戦略を決定する「情報セキュリティ政策会議」とともに、2005年にその遂行機関として設置された機関です。 

その長官は情報セキュリティセンターの設置に関する規則の2条2項によって、内閣官房副長官補が任務に当たることになっています。

ここで内閣官房とは、内閣、つまり国家の操縦席における事務を助けるため、内閣法が設置する内閣内の機関のことをいいます。

そのように内閣にたくさんの付加機関が用意されていることには、時代の変遷がかかわっています。

これまでわたしやあなたの国の運営は、事実上官僚による政策の決定で行われており、内閣や与党が官僚をコントロールするという建前を実行するためには、あまりにもその力は非力でした。

また政権を担当する能力をもつ健全な野党も存在しておらず、本質的にいってわたしたちの議会政治において国民主権は実際には駆動していない状態でした。

そこで、内閣を強化することで実質的に政策決定を行い、官はそれを執行することに専念し、野党は内閣をコントロールする役割を担うシステムが再度標榜されました。

さらにそのためには、まず選挙制度をより直接的に内閣編成へ影響できるよう再編成しなければならないという論説が唱え始められました。

これを「議会政の国民内閣制的運用論」といいます。

そしてこれに呼応するように、中央省庁等改革基本法は内閣の強化を基本理念とし、機能強化、総理の指導性の明確化、支援体制の強化という三つの基本方針を打ち出しています。

さらには内閣官房の強化・内閣府の設置・省庁再編を内容とする中央省庁改革関連法も制定され、2001年に実施されました。[参照:憲法 芦部信喜 第4版 岩波書店]

内閣官房付組織からの指摘を、官が放置したという事態は、もしかするとこうした力関係の再編期における権力のせめぎ合いが音を立てているのかもしれません。

 

 

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