特別な稽古で少年は死んだ

親方誠意なし…17歳力士急死、耳は裂け根性焼き痕 (zakzak)
「「顔面は赤く腫れ、身体中にはアザとすり傷。耳は裂けていた。さらに太腿にはたばこを押しつけたやけどの痕が3カ所あった」。斉藤さんの叔父(44)はこう語った。新潟県の自宅に戻った遺体の惨状は正視に耐えられないものだった。「今は何も考えられない。頭がパニックになっている…」と憔悴(しょうすい)しきった声で話した父親(50)は血圧が200まで上昇し、寝込んでしまった。「お兄ちゃん子だった小学3年の妹は、遺体のあまりの惨状を目の当たりにし、全身を痙攣させ、半狂乱で『お兄ちゃーん』と叫んだ」(叔父同)。遺族は弔問に訪れた友人らにも、「とても見せられない」と、遺体と対面を断った。」

刑事訴訟法の231条2項をごらんください。

第231条

「2 被害者が死亡したときは、その配偶者、直系の親族又は兄弟姉妹は、告訴をすることができる。但し、被害者の明示した意思に反することはできない。 」 

(以下引用:スポーツの法律相談 青林書院

スポーツの現場で、責任者の過失により事故が発生したと考えられる場合、警察に対して捜査開始の請求するなら刑事告訴が利用されます。

告訴に決まった受付時間や曜日はなく、普通、警察署の刑事課で告訴が受付けられます。

刑事課にもいろいろな係がありますが、告訴の受付けをするのは知能犯係と強行犯係であり、傷害・死亡などの身体を殺傷する犯罪についての告訴は強行犯係で受け付けます。

つまりもし若い力士が部屋のしごきで死亡したのだとしたら、刑事告訴は警察署の刑事課強行犯係に対して行うことになります。

告訴は口頭でもできることになっていますが、実際には書面で提出した方が公務への訴求力があります。

また告訴状には犯罪事実の疎明資料を添付して刑事課宛に送るとよく、そのあと刑事課長に連絡をつけて面会に行き、詳しい事情を説明すると段取りがよいでしょう。

もし資料が不足していると、検察官の段階で嫌疑不充分として不起訴処分となってしまう可能性があるため、告訴時になるべく多くの資料を集めるのが大切です。

刑事被告人という立場を負わせるのは社会的に相当な重荷になるため、警察も検察も慎重になるからです。

実は告訴状の形式には特に定まったものがあるわけではなく、どのようなものでもかまいません。

しかし弁護士は通常、B4 の紙を袋とじにして、縦書で告訴状を作成します。

冒頭には「告訴状」というタイトルをつけて、その後に告訴人の住所、氏名、押印、続けて被告訴人(たとえば部屋の親方)の住所、氏名を記載します。

そして、その次に「告訴の趣旨」とタイトルを入れ、何罪で告訴するのかを簡潔に記載します。

たとえば「被告訴人の以下の所為は、業務上過失致死罪に該当すると考えられるので、至急捜査を遂げ、厳重な処罰をされたい。」となります。

次に、「告訴事実」というタイトルを入れ、事件に至った詳しい事情を書きます。

もし業務上過失致死罪なら、それが成立するための要素、つまり指導者の過失ある行為、被害者の死亡、両者の因果関係、について証拠を引用しながら説得的に書く必要があります。

そして、告訴事実の最後に、「被告人の以上の所為は、業務上過失致死罪に該当するので、厳重な処罰をされたく告訴に及ぶ。」と、結びを入れます。

次に、「立証方法」というタイトルを入れ、陳述書(山田太郎作成)」というふうに証拠として添付するものを番号をつけて挙げます。

最後に、日付を入れ、「○○警察署御中」とあて先を書いて終わりです。

もちろん親族の告訴がなくとも、重大な事件であれば警察は自主的に動きます。

しかも訴訟に何年も参加することは、とても体力・気力を奪われるものです。

それに指導者は事故を起こしたくて起こしているわけではないでしょう。

しかしおよそスポーツの範疇といえないむごい傷を負って死んだ少年は戻ってきません。

誰かが代わりに叫ばなければ、額を割られて死んでいった彼の無念は彼といっしょに焼かれるだけです。

刑事訴訟法231条2項という条文は、命を奪われた人とその家族の選択肢として国が用意したものです。

 

 

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