食肉加工という、不思議な大木から垂れる蜜

ミートホープ 肉に着色、水で増量か 偽装の実態が日報から次々(北海道新聞)
「原料の量と製造量に関し、つじつまのあわない記載がみられる投入原料日報「別の食肉加工業者によると、ひき肉の製造過程では、機械に肉がついてしまうため、原料に対し製造量が増えることはないという。ミート社は鶏肉の場合でも「肉十五キロに水五キロを混ぜ、二十キロにした」との情報もあり、水で肉の量を増やす偽装がひんぱんに行われていた可能性もある。」

ハム類の日本農林規格の第4条をごらんください。

第4条(抜粋)

ボンレスハム、ロースハム及びショルダーハムの規格は、次のとおりとする。

標準

赤肉中の水分 75%以下であること」 

食肉流通の過程で、関係者にどのように利益が反復創造される余白があるのでしょうか。

この点を鋭く指摘した書物に、立花隆さんの「農協」という文献があります。

昭和54年の著作のためディティールは現在と異なる部分もありますが、非常に重要な指摘が存在しますので、三箇所を加筆訂正せずそのまま引用してみます。

「輸入肉はキロ三百円から六百円の調整金を上乗せされているとはいえ、国産肉よりはるかに安い。正規ルートからの横流しで中間マージンをとられてもまだ安い。だから国産肉と混肉すれば、小売りは相当のマージンを稼ぐことができる。肉の小売業界も小規模店が多く、経営は必ずしも楽ではない。だから、小規模の米の小売業者が混米で稼ぐように、肉屋も混肉で稼ぐのである。どんな流通業界でも、一物多価あるいは多物一価の流通を人為的に強制させようと思っても、流通ルートの中を流れるうちに、自然に調整されてしまうものである。だから、畜産振興事業団が調整金をとらずに、もっと安く肉を放出すれば輸入肉がもっと安くなるはずだという議論があるが、それは誤りで、そんなことをしても、放出割当権者、買参権者をふやすだけで、差益のほとんどすべては流通各段階の業者に吸いとられて終わるだけというのが経済の現実原則なのである。」

「輸入牛肉は国産牛肉にくらべて安すぎるために、どうしても利権問題となる。数年前のビーフ・マフィァ騒ぎのように世の批判をあびて、いろいろ手直しを重ねるうちに、いよいよ複雑なものになってきたのである。現在その差益は、先に述べたように、流通各段階の"うま味"として残っている分もかなりあるが、かつての利権的差益の大半は、畜産振興事業団の調整金として吸いとられている。その金額が五十三年で実に四百五十億円にものぼる。これは、畜産振興事業に対する助成金として使われることになっている。そこで今度は、輸入牛肉の配分にあずかること以上に、この助成金の配分が利権の対象になっている。その配分権を握るのは、事業団と農水省の畜産局である。補助金が大半を占める農水省の予算は、ただでさえ政治が介入した分捕り合戦になっているのに、国会の議決が必要な一般予算とちがって、事業団の助成金は農水大臣が最終決定権を持つ。実質上は畜産局が配分権を持ち、大蔵省にわずらわされることがない第二の予算となっている。その配分には予算の配分以上に政治家が介入し、またその配分や出資の受け皿のための団体、輸入牛肉配分団体が山ほどあり、そこには、しばしば農水省の官僚OBが天下るという乱れた関係もある。そうした団体のなかには、たずねてみると事務所が同じで、看板が二枚かかっているというようなところもあるほどだ。この巨額の調整金もよく考えてみると、最終的には消費者が肉の購買を通じて支払っている一種の間接税なのである。」

「実際、一般の食肉加工品の品質はかなりひどい。ハムなどは、豚肉に注射針で味つけのビックル液を大量に(重量比で肉の三割、四割は当たり前、ひどいときは七割も)ぶち込み、それをマッサージ機にかけて浸透させ、入れすぎたビックル液が肉と分離しないように結着剤の重燐酸塩を加え、増量剤として大豆タンパク、カゼイン脱脂粉乳などを「調味料」の名目で加え、場合によってはJAS規格の検査をとおすために、検査用の製品を別につくるということまでおこなわれるという。業界内部でも、最近あまりに品質低下がいちじるしく、消費者の反発をまねきかねないから、少しやり方をつつしもう(やめようではない)と、そうした操作の自粛基準なるものを業界団体でもうけたほどだ。だいたいJAS規格そのものがひどいもので、ハムというのは本来塩漬け肉だから、生肉より水分が減らねばならないのに、生肉で五二・五%の水分があるロース肉を使用したロースハムの水分基準がなんと「六五%以下」なのだ。計算してみると、ロース肉一〇〇グラムに三六グラムの水を加えなければ六五%の水分にはならない。これでは農水省がハムに水をぶち込むことを奨励しているようなものではないか。」

(以上引用:農協 立花隆 朝日新聞社出版局)

昭和54年当時、立花さんによりハムの水分65%という点に視点の緩さを指摘されたJAS規格ですが、現在の4条は特級、上級で72%、標準で75%とさらに規制が緩くなっています。

いうまでもなくハム類のJAS規格第4条は、消費者の意思という私的自治の根本と、業者の利益追求のバランスをとろうとする立法趣旨です。

その大切な数字がいかなる力学によってさらに消費者に不利に動いたのか、それは行政の進化なのか退化なのか、単なる消費者であるわたしやあなたにはわかりません。

そして食肉加工品をめぐるこの理解の難易度にこそ、行政も含め関係者がこぞってキャッシュ・ジェネレータを備え付けられるスペースが存在しているのだといえそうです。

 

 

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